映画『屍人荘の殺人』

(公式ホームページ)
原作はデビュー作ながらミステリ賞を四冠したという人気小説。
ストーリーとしては、
神紅大学には、良くも悪くも名の知れたコンビがいた。神紅のホームズこと明智恭介と神紅のワトソンこと葉村譲。事件を見つけては首を突っ込む明智と、その助手としてついて回る(一応)常識人の葉村。そんな二人の前に姿を見せたのは、警察の捜査にも協力したことがある正真正銘の女子大生探偵・剣崎比留子。
彼女は、明智と葉村に神紅大学のロックフェス研究会がOBの湖畔のペンションで合宿を行うから一緒にどうかと誘う。興味を示さない二人だったが、比留子が研究会に「今年の生贄は誰だ」と言う謎の脅迫状が届いたこと、去年女子部員が一人行方知れずになった後に人知れず大学を中退していたこと伝える。
「湖畔のペンション」「謎の脅迫状」「失踪事件」
三つの要素はあっさりと明智を動かし、葉村も同行することを決める。
当日、ペンション紫湛荘(しじんそう)にやってきた三人は、そこで感じの悪いOB二人とそんなOB二人にへつらう研究会を取り仕切る進藤の存在を見て合宿の意味を訝しみつつも、近隣で行われているロックフェスに向かうことに。
しかし、そのロックフェスではすでに“事件”が起きていた。
命からがら紫湛荘に戻ってきた葉村たち。だが、一晩明けた時、進藤の謎の遺体が発見されて――
というお話。
原作は既読。感想はこちら⇒『屍人荘の殺人』(原作小説)
ここからは映画と原作のネタバレが絡むことになるので、今後観る予定や読む予定がある方は追記はスルーしていただけるとありがたい。
一応書いておくと評価は、★★☆(2.5点 / 5点)。原作既読者としては1点くらいでもいいが、まぁ映画としては二時間程度に纏めてくるとコミカルさはともかくこうなるかなというところではこれくらいかな。出来れば原作を読む前に観るべきだったとも後悔(まぁこの内容で原作も読んで観たいとは思わないかもしれないが)。
詳細な感想は追記からどうぞ。
さて、本作ではあるが結論から言えば、「この手の映画で良く見られる原作改悪の実写映画」というのが最も的を射た評価だと思う。もちろん、原作を読んでいない人が見ればまた違った感想や評価になるとは思うのだが、原作既読の私にはその視点からはもう観ることは出来ないので…。
本作と原作の最大の違いはコミカルさを取り入れてしまったことだろう。映像として退屈させないように、あるいはゾンビが出てきて彼らを斃すために生きている主人公たちが頭を――脳を貫くという割とグロいシーンが多い本作のヘヴィな視聴感覚を少しでも中和してライトにしようと考えられた結果なのだと推察は出来る。
ただ、そのセンスがイマイチ。
何より、探偵役にしてヒロインである比留子がその最大の犠牲になった点が酷い。原作、あんなキャラじゃなかったじゃん(苦笑 あれじゃ完全に明智並みにおかしい人になっている。なってしまったが故に、逆に明智の変態性というか奇人性が薄れてしまっている。
ストーリーとしては、おそらく丸々原作を実写化させるには尺が足りなかったと思われ、いろいろ変更とカットがされている。これは仕方のないことだ。ただ登場人物にあそこまで手を入れる必要があっただろうか? 例えば葉村は所属学部が、明智と比留子は年齢さえ変更させられている。それって意味あるかな? その変更がないと成り立たないストーリーなら理解も示せるがそんなことはなかった。別に葉村が理学部だろうが原作通り経済学部だろうが大した差ではないし、明智が留年を重ねていても、比留子が原作より一歳若くされていても「そうしなければいけない」理由は取り立てて見当たらなかった。
他にも言うならば、高木、静原も原作ならば進藤らと同じサークルだったし、出目もOBチームの一人だった。静原に関して言えば、後述するトリック関連の事情もあるのでああいった改変も否定はしないが、わざわざ高木や出目を完全な部外者にする意味はどれほどのものだったのだろう?
明智の留年含めて、キャスト前提なところを感じてしまって、じゃあそのキャストが最高だったかと言えば「別に原作の設定に合う人でも良かったのでは?」と思う程度の存在でしかない。
同じように終盤の展開は原作を変える意味はなかったとしか思えない。
1つ目は静原の自害。それ自体は原作通りだが、その最期の言葉に納得いっていない。原作だと、「(ゾンビ化すると去年被害にあって自殺したサチに)会いに行く時間が増えるし、皆さんの手間も増すので」みたいな、巻き込んだ人たちへの謝意と自分の犯罪へのある種の自尊・誇りみたいなものを見せつけて自害したけれど、この映画では「もうちょっと生きてみようかと思った」というわけのわからない言葉に。
2つ目はゾンビ化した明智へのトドメ。こちらもおおよそは原作通りだが、なんであの場面? と思ってしまう。あそこにゾンビ化した明智がいるなんて自衛隊、アホ過ぎだろ。原作通り、屋上に逃げる途中の攻防で良かったのでは? あそこが文字通り映画の最後だとちょっと意味不明感が強い終わり方になった気がする。
トリックに関しては、これは完全に個人的な趣向ではあるが、原作では決め手となった建物の構造上の矛盾を突くシーンは欲しかったかなと思う。ただそれをするためには原作通り、葉村は時計を盗まれないといけないし、葉村のバックグラウンドにも触れないといけない。それらをすると尺がオーバーするという判断でカットされたのだろうとは推察できるし、ここは理解も示せる。他の部分はおおよそ原作通りだったと思うので、そこは良かったかな。
でも、スマホ落としてそれを拾ってもらってナンパしてもらうのを待つって殺人計画にしてはあまりに弱すぎるだろ。明智に花を持たせたかったのだろうが、それならそれでもうちょっと頑張れよと言いたい。
あとバリケードはもっと早く作れよ(笑
キャストはこの設定ならありかな。浜辺さんは、比留子があんなコメディ探偵にされてしまってちょっと可哀想。原作通りの比留子でも彼女なら十分魅力を発揮させられただろうに……。塚地さん、ふせえりさんはコミカルな印象が強すぎる。というかだからキャスティングされたんだろうけど。同じように明智役の中村さんも、中村さんだから明智に留年設定が追加されたんだろうなと邪推してしまう。
個人的には静原役の山田杏奈さんが、ちょうど今期『新米姉妹のふたりごはん』を観ていることもあってタイムリーな女優さんだった。犯人役といういい役だったしね。さらに、静原の姉の名前がサチ、今『ふたりごはん』で演じている役の名前がサチだからなんか変な既視感も(笑
評価は、★★☆(2.5点 / 5点)。原作既読者としては1点くらいでもいいが、まぁ映画としては二時間程度に纏めてくるとコミカルさはともかくこうなるかなというところではこれくらいかな。出来れば原作を読む前に観るべきだったとも後悔(まぁこの内容で原作も読んで観たいとは思わないかもしれないが)。
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