魔弾の射手: 天久鷹央の事件カルテ

著:知念 実希人 発行元(出版): 新潮社
≪あらすじ≫
西東京市に聳える時計山病院。十一年前の医療ミスで廃院に追い込まれたこの場所で、一人の看護師が転落死する。死亡状況や解剖結果から自殺が有力視される中、娘の由梨だけはそれを頑なに否定した。天医会総合病院の副院長・天久鷹央は彼女の想いに応え、「呪いの病院」の謎を解くことを決意する。死体にまったく痕跡が残らない“魔弾”の正体とは?現役医師が描く医療ミステリー!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
天久鷹央シリーズ最新作はナンバリング無しの長編。シリーズ自体は区切りの十作目。ではあるのだけど、あんまり区切り感はないかなぁ。
今作では自殺の謎を追うというストーリー。自殺か、他殺か、はたまた呪いか。オカルト的な要素が入るのは前作同様だし、小鳥遊のヒロイン候補で鷹央、舞以外の女性キャラが出てきて小鳥遊への好意を匂わせている辺りも似通っているので、ちょっとその辺りは違う内容を求めたかったところ。というか、時系列が進んでいるように見えて実際のところ、前作とのつながりが薄くてその辺りはナンバリングじゃないからなのかなぁ、と肯定的に解釈もしているのだが…。前作では小鳥遊の出向期間の終わりが迫っているような描写もあったはずなんだけどねぇ…。
一応、それを意識しているのかどうなのか、鷹央のインフルエンザ、それによる小鳥遊の動揺、普段は焚きつけている舞が真面目に語る小鳥遊と鷹央の関係性など人間関係としては前に進ませている要素もあるにはあるのだけど…個人的には、由梨にはしばらく登場してもらいたい気もするけど、病院関係者じゃないし難しいのかね。そういう意味では久々に真鶴は出てきたね。ほんと、ちょい役だけど。
キャラ面でもう少しだけ語ると、鷹央のキャラクター性がちょっとブレてるのかな、と思うシーンもあった。それは彼女が、他人の気持ちを理解し始めている、ということだ。その天才的な頭脳の代償とでもいうように、鷹央には他人の気持ちを推しはかる能力に欠けていたはずなのだが、今作では「気持ちを理解出来なくもない」とかそんな台詞が多く見られた。
正直、それは彼女のキャラクター性の否定に近い。ただ、これが小鳥遊と歩んできた時間によって鷹央が経験し成長した証だというなら、そこはまぁ納得出来るところでもあるのだけど……だから、前述の部分含めてこの辺りが、著者が意図的に出した要素なのか、何も考えずに出てきた要素なのかが判別出来ないのがもどかしい。
さて、トリックとしてはある意味でこの作品らしい、医療関係者でもたぶん知る人ぞ知るような内容(苦笑 トリック的には「遺伝型だからって、子供(被害者たち)はともかく、孫(由梨)まで受け継がれることが医学的に妥当なのかとかそういったところの判断が素人には出来ないけれど、まぁそこは「そういうこと」と受け入れるのが良いのだろう。「読みながら一緒に推理してこそミステリ」と言う方もいると思うので、そう言う方からすれば「分かるわけがない!」と憤慨するとこだろうが、東野圭吾さんの『ガリレオ』シリーズなど、専門分野の人とその知識でないと解けないミステリっていうのも一つのジャンルとして確立しているし、私はこの作品ではこのトリックの在り方の方が正解だと思ってる。
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。
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