映画『アド・アストラ』

(公式ホームページ)
太陽系を舞台とした近未来SF作品。物語は、
火星圏にまで人類の足が伸びた時代。ロイ・マクブライドは、常に沈着冷静で動揺せず任務のためならば私生活をも犠牲にするストイックな姿勢が評価され、アメリカ宇宙軍で宇宙飛行士となっていた。彼は、20年前に地球外生命体の調査・発見のため一大プロジェクトの責任者として海王星へ旅立ちながらその後消息不明となった、「最も勲章をもらった宇宙飛行士」であるクリフォード・マクブライドの息子としても有名でもあった。
ある日、地球を強力なサージ(異常高電圧)が襲う。全世界で数万人が亡くなったサージの発生源は、20年前に消息不明となった父クリフォードの乗った宇宙船!? ロイは宇宙軍司令部から、米軍火星基地から海王星に向けて父親とコンタクトを取る極秘任務を受けるが――
というもの。
物語はとても良かった。有名で偉大過ぎる父親、父を突然失いながらも同じ道を選んだ息子。しかし、その弊害でロボットみたいな感情を抑圧した機械的人間となってしまう。
任務を通して、ロイは父親へ感じていたコンプレックスと向き合い、そこからさらに自分自身の内面、本当に大切にしたいものと対峙していく流れは見事。
特に任務遂行が可能なメンタル状態かどうかを判断する心理検査が、物語の随所にあることでロイの心情の変化や波といったものが視覚化されているというか、分かりやすい形になっている。
欲を言えば、三つだけ不満点がある。
一つ目は、ロイが司令部の命令を無視して海王星へ向かう宇宙船に乗り込む必要性。結果的にそれで多くの人の命がロイのせいで喪われたわけで、その後のストーリー展開を考えるともう少し手がなかったのか、と思ってしまう。もちろん、この展開があったからこそ結果的に単身海王星へ向かって父と対峙出来るわけだけど、結末から逆算するなら数名の仲間がいてその仲間とのやり取りを経てロイが変化していく流れでも良かったように思う。特に命令違反をしたロイに米軍司令部がどういった考えなのかというのが全く分からないのもそれを助長している。
二つ目は、父親と再会後の描写が中盤までの丁寧な作りに反してちょっと雑に見えたこと。正直、尺の配分をちょっと間違えているかなぁ、という感がある。むしろ再会後こそ父親へのコンプレックスに対して向き合う場面な気がするけど、あっさりし過ぎていたし、その父親の感覚・考えというのももうちょっと丁寧に掘り下げて欲しかった。
三つ目は、SF考察不足。軌道エレベーターから落下してしまう冒頭シーンだけど、あそこまでがっつり落下するのかな、と。もちろん高度にもよるんだろうけど、そこは違和感。他にもシャトル後部のエンジン部分からカウントダウンが始まっている段階から外壁を伝って内部に至れるのかとか、20年も空気・酸素・水・食料(栄養)を確保するシステムとか、核爆発を利用して宇宙船を加速させようとしたり、行きはすっきりしていたのに帰りは髭が伸び放題だったロイとか、おそらく数か月か数年レベルで宇宙にいた人を帰還直後に他の人が触ったり、あるいはロイが自力で立てたり、そもそも月面や火星に基地があるのに地球直帰ってどういうことなの? と思ったり。まぁ、細かい部分での考察の詰めが甘い気がしてしまう。
ただ、大きく観た時には些末――ではないけれど、致命的でもないかな、といったところ。主演のブラッド・ピットさんの演技が素晴らしく、父親役のトミー・リー・ジョーンズさんも久しぶりに見たけどブラッド・ピットさんの演技に応える光る演技だったと思う。この二人の演技が光るストーリーだったし、ストーリーをより盛り立ててくれた主演二人だったんじゃないかな。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。不満点もないわけではないが、父親への畏怖と尊敬と怒りがない交ぜになった主人公という軸は最後までブレていないので観ていて安定感がある。
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