映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』

(公式ホームページ)
フィクションではあるが、実話を元にしているフィクション。「事実は小説より奇なり」とは良く言ったものであり、それを如実に示している作品の一つのようだ。
構想は監督である蜷川実花さんが抱いていたとも。蜷川さんがメガホンを取った作品は今夏、『Diner』を観ていて期待三割、不安七割といったところだった(笑
さて、本作であるが、酒、たばこ、女に溺れ自堕落な生活をする太宰治。彼が人間失格を執筆し、その後入水自殺するまでの過程をフィクションとしつつも、太宰治の執筆に対する苦悩や葛藤を推理し絡めながら描かれている。
それ自体はなかなかに面白いと思っている。観た時は知らなかったが、上映後に「実話を基にしたフィクション」と知ってWikiなんかで調べると、確かにその通りなところも多くて本当に驚く。小説家――それも傑作を遺すような人というのは、どこか常人と違う部分や欠落した部分があるのかな、と真剣に思ってしまったほど。
太宰治役は小栗旬さん。年齢的にも太宰と近い部分なのでリアルに演じたと思う(太宰治の人物像とは符合しないという感想もあるらしい)。相手役の三人の女性を、それぞれ宮沢りえさん、沢尻エリカさん、二階堂ふみさんがそれぞれ演じる。正直、史実では太宰より年下だった妻・美知子を、相手役の小栗さんより十歳近く年上の宮沢さんが演じることは素直に違和感だった。まして、ほか二人が三十代の沢尻さん、さらに二十代の二階堂さんが演じたがために余計に際立ってしまった感はある(終盤で、太宰を自ら切り捨てておきながら、いざその通りになった時、涙するシーンは宮沢さんくらいの貫禄あってこそだとも思ったが)。
映倫のレイティングでR15+の作品。なので性行為を暗示する描写が相応数あるのだけれど、身体を張ったのは二階堂さんかな、という感じ。沢尻さんも見せられる部分は「魅せて」いたと思うけれど。逆にそういったところで、美知子を演じた宮沢さんにはそういったところがないのは……必要性がなかったと言えばそうなのだけれど…。
演技面でも二階堂さんは怪演というか、太宰に執心し依存し病んでいく女性を見事に演じている。
あと蜷川さんはよほど藤原竜也さんがお好きと見えて、Dinerに続いて今回も出演。まぁ、そんなに「要らない役」ではなかったけれど。
ストーリー的には広げ続けた風呂敷をどう纏めるかなと思った。上演後、Wikiで太宰治の生涯を知るとあの終わり方しかなかったとも思うしかないし、案外うまく纏めてきたなとも思う。
ただ登場人物の多さの割に、伏線の回収が甘いなと思うところもある。三島由紀夫をわざわざ出した割にはただのけんか別れで終わらせてしまったのは勿体なく(史実では晩年、三島由紀夫はあれほど嫌悪した太宰治と自分は同じなのだと語ったとも)、また太宰の税務署からの納税通知書のその後や、静子のその後(史実通り、自身名義で斜陽日記を出版するが、それで実は名声を得られたわけではなく、当時は辛い想いをしたとか)、美知子との間に生まれていた正樹の症状(実話ではダウン症だったとも)など、掘り下げた方が良かったシーンはもうちょっとあった気がする。
映像としては、蜷川さんが監督だがDinerほど趣味に走った感はなくて観やすかった。随所には色彩の使い方が蜷川さんらしい、彩度が高く鮮やかなカットもあったが、総じて許容の範囲内だろう。強いて何かを言うとすれば、雪の降る中喀血する太宰に友紀と一緒に白い花が降り注ぐシーンや、人間失格執筆中の太宰の周囲の部屋が解体されていくシーンなんかは、それまでの本作の描写とはちょっと相容れない感じがあるかなと思うくらいで。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。誰もが知る「太宰治」の名。その彼の晩年を、実話を元にしたフィクションとして描かれている作品は、あくまでフィクションの面も強いけれど一方でちゃんと実話に沿っている部分もあるので、教養としても観ていて損はない。
まぁ、R15+なので、観れる人はというところだが。
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