危険なビーナス

著:東野 圭吾 発行元(出版): 講談社
≪あらすじ≫
独身獣医の伯朗のもとに、かかってきた一本の電話―「初めまして、お義兄様っ」。弟の明人と最近、結婚したというその女性・楓は、明人が失踪したといい、伯朗に手助けを頼む。原因は明人が相続するはずの莫大な遺産なのか。調査を手伝う伯朗は、次第に楓に惹かれていくが。恋も謎もスリリングな絶品ミステリー。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
東野圭吾さんの文庫化作品。
率直なところ、キャラ設定がちょっとボヤけていたかなと思った。主人公の伯郎は、少しずつ楓に惹かれて行くわけだが、そこを含めて割とスケベというか、ムッツリというか、まぁ独身男性としては当たり前かもしれないけど異性に対して「そういう目」で見てしまう。それを悪いと言うつもりはない。
ただ、これが小説で、そしてエンターテイメントであるならば、それならそれでそういった「面」をもっと前面に出したキャラであるべきだったと思う。例えば、獣医助手をしてくれる蔭山は伯郎のセクハラ被害に遭って嫌っていたとか、いっそ極度の女好きにしてしまうとか、その辺り割り切れなかったのはちょっと筆者、あるいは編集者の落ち度かなと思ってしまう。
っていうか、伯郎の恋愛観、中学生かよと言いたくなるような感じ(苦笑 特に中盤以降、勇磨が絡んでからの楓への束縛具合が特に酷いと思ったし、それならそれでそういった「過去にそういった恋愛しかしてこなかった」的な描写があった方がより自然になった感じ。
普通のミステリでの探偵役なら勇磨が出てきてから楓と連絡が取れなくなったり、嘘を吐かれたりという部分は逆にもっと掘り下げていくべきだったのではないかと思う。普通なら抱くであろう楓への不信感や疑念をまるで抱かない辺りは、さすがにちょっとなぁ、と。リアルにこんなことがあればこうなっちゃうのかもしれないが、盲目にも程がある……。
付け加えるならそのヒロインである楓も魅力的ではなかったことも痛手か。良く言えばノリが良く、悪く言えば軽薄過ぎる彼女に伯郎が惹かれる要素が感じられず、それこそ本当に見た目、スタイルだけなのでは、とさえ思ってしまう。
他も丁寧に掘り下げているようで、描写不足は否めない。とりわけ、異父弟の明人そのものの描写が不足しているのは引っかかる。彼が、異父兄の伯郎に対して比較的好意的であるならば、相応のエピソードは用意して然るべきだろう。そこのところの描写が足りてないし、キャラ設定としても不足しているから、終盤の展開で「なんだかなぁ」という気持ちになってしまう。
何より、ミステリとしての「謎」が正直、これだと成立していない。読者が読み進めて行く中で最後の読者の力で真犯人にはたぶん辿り着けないし、そうじゃなくても「謎」というものが不鮮明だ。明人の失踪なのか、母親の死の真相なのか。もう少し焦点を絞った方が良かっただろう。正直、このどちらでも一本で描けたはず。それをわざわざ二つ持ってきて、というのはあまり理解出来ない。
動物、ペット、獣医ネタも作品そのものと絡んでいないのでちょっと微妙。これで本作が動物に関するミステリなら納得するが、この内容だと別に伯郎はどんな職業でも構わないしなぁ、と。
それこそいっそ町医者開業医にでもなっていた方が、矢神家への皮肉として効いていた気もするくらい。
評価は、★(1点 / 5点)。正直、出来は良くない。
同じ本の書評を書かれている方(敬称略)
・新・たこの感想文
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