志村魂 2019東京明治座公演

観てきました。
感想は追記。

ふとした思いつきだった。今年一月に歌舞伎を観て、四月にミュージカルを観て、そういった「舞台」というものへの偏見というかハードルみたいなものが薄くなっていたこと、たまたま春先に志村けんさんを特集する番組を観たことをきっかけに、「一度でいいから生で志村けんさんを観てみたい」と思ったのがきっかけ。
私は世代としては『だいじょぶだぁ』の世代だが、家にはドリフのDVDがあってそれで笑っている。私にとってお笑いのレジェンドは、萩本さんでも、ダウンタウンさんでも、とんねるずさんでもなく、志村けんさん。そのレジェンドを、(こういっちゃ失礼かもしれないが)舞台を積極的にやられていて第一線で活躍されている間に、この目に焼き付けておきたいな、と。

さて、感想を。構成は一部と二部という二部構成(中間幕間で30分休憩あり)。
一部に当たる一幕目は、バカ殿コントとだいじょぶだぁ形式コントという志村さんらしい構成。ネタ的には、良く言えば往年のもので誰もが一度は観たことがあるものであり、悪く言えば代わり映えしないネタが揃う。
コントに関して言えば、ネタ的には生で観るということに対して特別感みたいなものはそこまであるわけではない。ミュージカルの場合は、その声量に圧倒されるので生で観る意味みたいなものが強かったが、舞台となるとそうでもない。
ただ、ライヴ感というものが強いなぁ、とひしひしと感じた。幕があく直前のダチョウ倶楽部さんの前説的なノリを含めて、時事ネタ(私が観た時は、吉本問題ネタを取り入れていらっしゃった)を取り込むことでライヴ感を強く出していたし、他のお客さんと一緒に笑い声を上げて観れるというのも舞台という生ならではなのだろう。
またエンターテイメントとしての構成を非常に意識しているな、と思う。セットチェンジで必要な時間を、他の分野のエンターテイナーのパフォーマンスにあて、さらにそれを笑いに返ることで一体感を生み出している。
かつてのドリフが生放送で人気を博した理由みたいなものを、この一幕目では感じることが出来る。
二部に当たる二幕目は、まず志村さんの三味線独奏からスタート。基本的には志村さんの三味線の腕前に感嘆するのだが、そこにも随所に笑いを差し込む辺りが志村さんらしい。
二幕目のメインは、「一姫二太郎三かぼちゃ」。松竹新喜劇を原案とする作品。正直なところを書かせてもらえば、志村さんのお笑いの舞台を観に来ているので、人情モノ・感動モノの要素が強いこの作品は毛色がだいぶ違う。
この作品自体は、
皆が大学を出て嫁を貰い東京で成功する兄妹たちに対して、一人田舎に残り老いた両親の面倒を見る三男。志村さん演じる三男に対して、他の兄妹たちは東京に出ておらずいつまでも田舎にいる・お金を稼いでいない・知力がないということでバカにする。子供たちはわけ隔てなく可愛い両親は、自分たちの面倒を見てくれる三男を贔屓するわけにもいかず、そんな姿に三男の不満はたまる一方で――
というストーリー。
喜劇と呼ぶには、(あくまで個人的感覚ではあるが)話がヘヴィ。私の生い立ちや置かれている立場もあるのかもしれないが、ストーリー自体には笑い切れない部分も率直に多かった。まぁ、そこは感動させたい意図もあったのだろう。
私は別に演劇のスペシャリストではないが、それでもちょっとキャスト数が多いのかな、とは思った。登場人物に対してカタルシスを得られるのは、途中で借金が露呈した二男だけ。他の兄妹たちも見栄を張っているだけだと口頭説明はされているが、掘り下げ不足は否めない。
せめて、とりわけ志村さん演じた三男と張り合った上島さん演じた四男が土下座するくらいの展開があればまだ違ったのかもしれないが……。
しかし、そんな作品をコミカルに変えたのは志村さんの力だ。そこには演出を担当されたラサール石井さんの手腕もあるのだろうが、コミカルにお笑いを交えることでヘヴィなこのストーリーを魅せるモノへと変えた。
それが本当に素晴らしい。
素人の私には分からないが、どこまでが台本でどこまでがアドリブか分からないくらいのお笑いがそこにあった。まぁ、アドリブが決定的なのはたぶん磯山さんが投げた柄杓が志村さんを直撃して、ひたすら謝っていたシーンくらいだろう(笑 なんかガチで謝っていた感じだし。
その後の三男と父親とのやり取りなど各部がアドリブか、あるいは台本かは分からないが笑わせてもらった(アドリブに見えて台本通りというのは、志村さんが御笑いを学んだというドリフに通じている部分なので、そこの判断はし辛い)。
ヘヴィなストーリーを志村流の喜劇に見事に変えた志村さんらキャスト・スタッフの技量は凄かった。一方で、やっぱりもう少し肩ひじ張らずに見えるモノで出来なかったか、とも思ってしまった。

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