狩人の悪夢

著:有栖川 有栖 発行元(出版): KADOKAWA
≪あらすじ≫
人気ホラー小説家・白布施に誘われ、ミステリ作家の有栖川有栖は、京都・亀岡にある彼の家、「夢守荘」を訪問することに。そこには「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があるという。しかしアリスが部屋に泊まった翌日、白布施のアシスタントがかつて住んでいた家で、右手首のない女性の死体が発見されて…。「俺が撃つのは、人間だけだ」臨床犯罪学者火村英生と相棒のミステリ作家アリスが、悪夢のような事件の謎を解く傑作長編!!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
火村シリーズの文庫化最新刊。地上波ではなくHuluなのが(観れなくて)残念だが、実写ドラマ化の第二シーズンも今秋配信が決まっており、まだまだ根強い人気があるシリーズなのだと再認識する。
さて、本作のあらすじとしては、
作家同士の対談企画で、ハリウッドでの映画化まで決まった大人気ホラー小説を手掛けた作家・白布施と知り合ったミステリ作家・有栖川有栖。彼に気に入られた有栖川は、彼の担当編集者・江沢と共に京都・亀岡にある邸宅「夢守荘」に招かれた。
そこで有栖川は、かつて白布施のアシスタントをしていた青年・渡瀬が心臓発作で二年前に亡くなり、今になって彼と親しくしていた名乗る女性・沖田が渡瀬の済んでいた家を訪問していることを知る。
しかし、その沖田が渡瀬の家で他殺体として――首に矢が刺さり、右手首が切断されるという無残な姿で――発見される。
遺体の第一発見者の一人となった有栖川は、警察への通報と同時に臨床犯罪学者で盟友の火村英生に一報を入れる。京都府警からも彼向けの事件として臨場の許可を得た火村は、再び有栖川を助手にフィールドワークを開始する。
という感じ。まぁ、いつも通りと言えばいつも通りか。
だが、その「いつも通り」を二十五年もの間やってきたのだから本当に素晴らしいことだと思う(あとがきで著者が書いていたが、火村と有栖川のコンビ――作家アリスシリーズ(火村シリーズ)は、2017年3月で二十五年なのだそうだ)。
四半世紀。さすがに描かれている世界観は変わっていると思う。明確なのはスマホだろう。携帯電話が登場し、今では火村も有栖川もみんながスマホを使う。けれど、火村も有栖川も年齢を重ねない(少なくとも五年、十年と時間を重ねない。火村が法律の改正によって「助教授」から「准教授」になったくらいか)。いわゆる「サザエさん」方式が採用されている作品だけど、世界観のアップデートも相まってそこに「古臭さ」みたいなものがないのは、この作品の凄いところだろう。
常に変わっていく世界を、変わらない二人が活躍するというのは、(決してこの作品だけのものではなく世の中にはたくさんあるにせよ)少なくともこの作品はガッチリとハマっているのだろう。
著者は「まだまだこの二人でやりたいことがある」と語っているので(実際、当初は倒叙ミステリでこの作品を作っていたようだし)、しばらくシリーズの完結はないのだろうが、それでも本作では「悪夢」が一つの題材になっていることもあって、火村の悪夢にも踏み込んだシーンも少しばかりみられる。最後に有栖川が火村にかけた言葉も印象的で、変わらない二人はいつまでも変わらず盟友同士なんだなと感じた。
さて、もう少し本作の中身について触れておこう。
ストーリーは前述のあらすじの通り。文庫化前作にあたる『鍵の掛かった男』と比べると、火村はあっさり全体の1/3もしない内に登場してきてくれたのはありがたい(前作のアレはアレで、有栖川の活躍として意味あるものだったと思うが)。
ミステリとしては、正直読者では解けない部分が多そうな内容ではある。動機がやっぱり強く、最期の「鍵」は被害者が遺したメールの中の一文であり、それが意味するところは特定の人間でなければ解からないという代物ではね。
ただし、「切断された手首」と「現場に残されていた手形」にどんでん返しを持たせたところは面白い。少しミステリを読んだ者やミステリ系のドラマを読んだ者ならば、「手首は手形をスタンプのように捺すために切断されたのだろう」と推理する。案外、火村も有栖川もそこに触れないまま終盤に来て、いざそこに触れた時にそこの真実は事実その通りなのか、そうではないのか――。
落雷による倒木というアクシデントもある種の密室を作る要素になって「しまった」ところなのど、個々にミステリのアイディアはさすがに興味深く面白いものが多かったと思う。
キャラとしては火村の推理力はいうに及ばず、今作でも有栖川は最後に犯人と対峙し痛恨の一矢を放つ役目を担うことで活躍。火村の後ろをついてきて、的外れな推理を披露する(火村曰く「神経衰弱と一緒。アリスが外れのカードをめくり尽くしたところで、俺が正解のカードをめくる」とのことなので、あれはあれで火村の推理の一助らしいが)だけではないというのは、前作に続いて名探偵の助手としての有栖川の面目躍如かな、とは思う。
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。欲を言えばもう少し~と思う個所もないわけではないし、シリーズを読んでいることが前提な部分も多いが、全体的に良く仕上がっている一冊。前述のように「切断された手首」に関する推理は一読の価値はある。
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