純平、考え直せ

著:奥田 英朗 発行元(出版): 光文社
≪あらすじ≫
坂本純平は気のいい下っ端やくざ。喧嘩っ早いが、女に甘くて男前。歌舞伎町ではちょっとした人気者だ。そんな彼が、対立する組の幹部の命を獲ってこいと命じられた。気負い立つ純平だが、それを女に洩らしたことから、ネット上には忠告や冷やかし、声援が飛び交って…。決行まで三日。様々な出会いと別れの末に、純平が選ぶ運命は?一気読み必至の青春小説!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
手に取る経緯は、『東京すみっこごはん』の時に書いた乃木坂文庫に選ばれた一冊。2013年に文庫化された作品で、すでに映画化もされているらしい。
物語は、二十一歳の下っ端ヤクザ・純平がある日組長から抗争相手の幹部を殺ってこいと言われる――昔で言う「鉄砲玉」になれと言われた。面倒を見てもらっている直系の兄貴・北島に相談もせぬまま、「やります」と即答した純平には、準備期間とその後の牢獄生活――ヤクザ同士の抗争で一人殺せば十年は固い――を前に羽を伸ばす時間・三日と資金三十万が与えられた。その三日で純平が知り合った人たちと、その一人がネット上に純平のことを書いたものだから匿名の第三者たちが純平に対して掲示板で言いたい放題を始めて――、という話。
正直、ストーリー自体は取り立てて起伏があるようなものではなくで、どちらかといえば淡々としている。本当に、ヤクザの青年が鉄砲玉として行動を起こすまでのことを、それなりのリアリティで描いているという感じ。随所に――無銭飲食をしていた爺さんや、ネット上での顔も名前も分からぬ面々のやり取りなんかには、たぶん作者のメッセージみたいなものが込められているのかな、とも思えたが、それもそれを押し付けるような感じではなかった。
その分、キャラクターに関してはいろいろと考えられているのだと思う。血の気が多くて喧嘩っ早い純平だがどこか憎めないというか、語り部というか主人公として描かれている中で読んでいて彼を不快に感じるシーンは少なかったのは大きなプラス(終盤で薬にバンバン手を出してしまうシーンはどうかと思うが、まぁフィクションのヤクザ物なら出てくるか)。他のキャラクターも、個性はあるけどアクが濃くないというか、嫌な感じを受けない。
総じて、読みやすい作品だと思う。小難しいことがあるわけではないし、ミステリーのように推理する必要もないし、淡々と三日間、憎めないキャラクターたちが動いている様を、肩ひじ張らずに読める。
欲を言うならば「純平、考え直せ」というタイトルなので、もう少し説得する人間が多かったり、あるいは純平そのものが悩むシーンが多いとタイトル通りの作品になったかな、とは思う。特にネットの掲示板上のやり取りが、あまり物語を動かしていない点は勿体ないな、と。
評価は、★★★(3点 / 5点)。
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