薬も過ぎれば毒となる 薬剤師・毒島花織の名推理

著:塔山 郁 発行元(出版): 宝島社(『このミス』大賞シリーズ)
≪あらすじ≫
ホテルマンの水尾爽太は、処方薬を丹念に塗るも足の痒みがおさまらず、人知れず悩んでいた。薬をもらいに薬局へ行くと、毒島という女性薬剤師が症状を詳しく聞いてくる。そして眉間に皺を寄せ、医者の診断に疑問を持ち…。急激な眠気に襲われるホテル従業員、薬を過剰に要求してくる老人、ダイエット薬を格安で売る病院など、水尾は毒島とともに、薬にまつわる様々な事件に挑む!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
第七回『このミステリーがすごい!』優秀賞受賞者による新作。他の作品を読んでいないと思ったが、以前『F』を読んでいた。
タイトルの通り、薬剤師をメインに据えた日常系ミステリー。医者が探偵役である作品は多々あるが、薬剤師となるとなかなかに稀有だと思うので、着眼点としては面白い。
全体的に完成度は高いと思う。250頁程度の中に短編四つを入れているが、ボリュームとしては悪くない。薬をテーマに扱っているが読みづらさと言う部分はあまり感じず、リーダビリティも高い。その辺りはさすがの優秀賞受賞者といったところ。
薬に関しては知識がないので、書いている内容が正解なのか、妥当なのか、間違っているのかの判別は出来ないけれど、薬の取り扱いという部分では丁寧且つ慎重に、言われた用法・用量を守るというのが伝わってきたのは良かった。
ストーリーは個々の短編に関しては思うところもあるが、一冊の本としては最初と最後が上手く繋がっていて、水尾が暴走する毒島を説得する材料として活きている点は素晴らしい。
メインである薬剤師・毒島の個性がある一方で、語り部であるホテルマン・水尾は個性が薄めなのでバランスが上手く取れている。良く言えば、毒島以外に個性が良くも悪くも強いキャラクターがヤブ医者・是沢くらいなので「毒島を読ませる」という意図があるのかなと感じた。
ただ、不満な点もある。
1つ目はストーリー構築。前述の通り、一冊の本としての構成は素晴らしいが、一方で個々の短編としては「クレーマー登場⇒水尾介入⇒毒島の推理で解決」という流れで良くも悪くも固定されている。薬剤師の実体がこんなクレーマー対応職業だと言うのならばそれで構わないのかもしれないが、「薬剤師」という職業を活かせる展開だったかというと首を捻る。
2つ目は4篇目の推理。最後において探偵役は実質水尾が持っていてしまっている。それはそれで構わないのだが、じゃあそれがホテルマンである水尾だから可能だった推理だったかというとそうでもない。もちろん、一応伏線としてホテルマンである彼がこれまで接してきた人たちとの経験から推理していることではあるのだけど……うーん、ちょっとこじつけ感が強いかな。もちろん、書いている時にはこういった結末を予定していなかったのかもしれないが(4篇の内、最初2篇は大賞作家書き下ろしBook掲載作品で残り2つが書き下ろし)、結果論としてこの結末なら水尾はホテルマンよりも公務員(役所の人間)である方が説得力があった気がする。
3つ目は、2つ目と繋がるところだが是沢の処遇がどうなったのかが分からないこと。4篇目において大きなテーマの一つだった、是沢医師の不適切な薬の処方などに関して結局うやむやのままに終わったのは消化不良。
評価は、★★(2点 / 5点)。着眼点、キャラクターは面白く、一冊の本としての纏め方も上手いが悪い意味で固定されたストーリー展開とエピローグ不足は大きなマイナス点。
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