グアムの探偵 3

著:松岡 圭祐 発行元(出版): KADOKAWA
≪あらすじ≫
スカイダイビング中のふたりの男が空中で溶けるように混ざりあい消失した!事故か超常現象か?(「ワームホールへのタンデムジャンプ」)リゾート地であると同時に米軍の戦略上の要衝でもあるグアムでは、観光客を狙った犯罪だけでなくスパイ事件もが発生する。日本では考えられない大規模かつ多様な犯罪にゲンゾー、デニス、レイの日系人3世代探偵が挑む。結末が全く予想できない知的ミステリの傑作短編シリーズ第3弾!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
グアムの探偵第三弾。
全体的な部分では従来のシリーズを踏襲。先の二篇はこれまでやや影の薄かった副社長・デニスをメイン視点としているところが本作の一つの特徴か。彼の視点なりのところも大きい。
短編集五つという構成なので、探偵が謎に気付いてから真相解決が一足飛びに進む辺りは、人によっては「早すぎる」とも感じるかもしれない。私も正直早いかなと感じる部分もあるが、このくらいの文量やテンポがサクサク読めるというメリットもあるのでそこは一長一短ではある。今のところ、私はメリットの方が大きいかなと言う印象。
以下、個別に感想。
【ワームホールへのタンデムジャンプ】
スカイダイビングの一種・タンデムジャンプをするといった夫。しかし、その夫とインストラクターが空中失踪した!? 地上にはヘルメットやゴーグル、パラシュートだけ。調査をお願いされたイーストマウンテンリサーチ社。副社長のデニスは息子のレイと調査に乗り出すが――という話。
視点はデニス視点。荒唐無稽な気もするが、トリック的には面白い。あらすじにある知的(かどうかはともかく)ミステリとしての要素はしっかりしている。ミステリ要素を前面に出すなら最初のエピソードとしてはなかなかに良い。
【メモリアル・ホスピタルの憂鬱】
原因不明の線維筋痛症の娘の治療のためグアムを訪れた夫妻。デニスは、社長で父親のゲンゾーに言われてその警護につく。夫妻を狙うグアムのチンピラ、さらに日本のヤクザ。デニスはその騒動の中、とある真相に気付いて――と言う話。
こちらもデニス視点。クズ大人の話。どちらかと言えば、悪い意味で従来の松岡さんらしい小ネタ知識の詰め込みエピソードって感じ。グアムの関連法律と日本法律の違いとかその辺が。密輸トリックそのものは面白いと思ったけどね。
【ラッテストーンは回らない】
ゲンゾーの旧友で、グアムの著名人の一人であるトキフミ・セラ教授が失踪した。日本を離れられない息子夫妻に代わりグアムにやってきた孫娘の美月は、ゲンゾーを頼りイーストマウンテンリサーチ社に祖父捜索の依頼を出す。美月の魅力に惹かれるレイは積極的に調査に乗り出すが、という話。
こちらはレイ視点だが、美味しいところはゲンゾーが持っていったかな。美月に惹かれ過ぎたせいか、珍しく「探偵」としての在り方がブレるレイと、そんなレイを厳しくも優しく諭し導くゲンゾーの構図が、この親子孫の三代で経営される探偵事務所の一つの形みたいなものを観て取れた。
ネタとしてはなかなかにしてどうかとも思うが、まぁ描きたかったのは上気のことだろうとは思う。
【スプレッド・ウィズSNS】
ある日のイーストマウンテンリサーチ社は朝から満員御礼と言うべき大賑わい。いずれも日本人観光客ばかりで、彼らは口々に「写真を撮影していたら米軍の軍人に詰め寄られ写真のデータを消し、パスポート番号を教えるように言われた」と話す。しかし、彼らが撮影していた場所は観光地ばかり。この謎を前に、レイはSNS上での奇妙な「発言」に引っ掛かりを覚えて――と言う話。
レイ視点でネタバレになってしまうが、過去にもあった工作員の話。SNSを活用する形としてはなかなかに上手いし面白いと思った。まぁ、レイが気付いた違和感はあからさま過ぎたが、それを逆手に取った軍人の機転も面白い。
【きっかけは、フィエスタ・フードコート】
レイのスマホにかかってきた謎の匿名電話。それは足を洗ったはずの白タク(違法タクシー)業者が再び動き出し、日本人観光客がカモとして引っかかっている、というものだった。「日本人に親切丁寧」を売りにしているイーストマウンテンリサーチ社としては無視出来ず、現場に赴いたレイはその場で渡邊梨奈という日本人女性を救う。しかし梨奈はあまりに純粋過ぎてあっちこっちで詐欺のカモにあいそうに。見捨てておけなかったレイだが、そこで梨奈がグアムに来た理由を知って――という話。
常識がなく純朴だが、度胸があって機転が利く渡邊梨奈と言うキャラクターというのは、著者のQシリーズや水鏡シリーズのヒロインを彷彿とされる印象で、正直個人的にはマイナス。しかもその梨奈が、一か月の短期就労ピザを得てイーストマウンテンリサーチ社で働くという終わり方なので、おそらく次回作には間違いなく登場することだろう。しかも、レイの恋の相手役になりそうだし、レギュラー化しそうなところも不安だ。
正直、松岡さんが描くこの手のヒロインは単発として読む分には魅力あるヒロインになるが、回を重ねるごとに急激に胸やけするというか胃もたれするというか、そんな「濃すぎる味」に辟易しがちな印象。なのでそういったヒロインが出てこないグアムの探偵シリーズや単発で終わった瑕疵借りは良かったのだけど……不安すぎる。いっそ本著にも出てきている美月辺りが出張ってくれた方がよほど良いくらい。まぁこれは私見でしかないが。
内容もグアムの探偵シリーズのものというより、前述のQシリーズっぽさがあってあまり……。
評価は、★★★☆(3.5点 / 5点)。最後のエピソードが今後への不安なので大きなマイナスに。それ以外の作品は概ね楽しく読めた。
Comment
Comment_form