プリンセス刑事

著:喜多 喜久 発行元(出版): 文藝春秋
≪あらすじ≫
女王統治下にある日本。現女王の姪で、王位継承権第五位の王女・白桜院日奈子が選んだ職業は、なんと刑事だった!?「ヴァンパイア」と呼ばれる殺人鬼による連続殺人事件の捜査本部に配属された日奈子と、彼女のパートナーに選ばれた若手刑事の芦原直斗は、果たして凶悪な犯人を逮捕することができるのか―?
(裏表紙より抜粋)
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≪感想≫
『Mr.キュリー』シリーズから各種短編まで主に化学系、理系のミステリで多くの作品を発表している喜多喜久さんの書き下ろしらしい新作。興味深いのはそんな喜多喜久さんが、「女王統治下にある日本」「王位継承権を持つ王女が新米刑事」「『ヴァンパイア』と呼ばれる殺人鬼が出た」と、なんともまぁファンタジーチックな下地で物語を描いていることだろう。
さて、結論から言えばシンプルな刑事モノといったところ。正直に言えば「ミステリ」とは言えない。劇中のキャラが謎を解く要素もないし、読者が解ける要素もない。順々に物語が進んでいって、その結果として入手した情報を基に次へ次へと進んでいくという意味では、「ミステリ」ではなく「刑事モノ(警察モノ)」といったところ。そこにエッセンスとして加わるのが、「女王統治下にある日本における、王位継承権第五位を持つ王女が刑事」といった要素というわけだ。
ただ、率直に言わせてもらうと日奈子の王女としてのキャラクター性が活かされているかといえば、たぶんNOだと思う。確かに王女としての感性や感覚といったものが劇中には反映されている。しかし、「じゃあそれが『王女』という濃ゆい設定だからできることか」といえばそれはNOなのだ。
この設定で物語をやるならば、もう少し彼女が王女であること、王位継承権を持つこと、この世界においては女王統治下にあるということを掘り下げて欲しかった。具体的には、彼女が王女であるが故に体験してしまった辛い出来事やその立場だからの責め苦があるからこそ分かるとか、そういった「歩んできた経験や歴史」が出て欲しいところ。あるいは女王の血筋がなせる、独自に洞察力や慧眼があるとか。そういうのが一切ないので、このままだとただ純培養されたお嬢様でしかない。そこは正直、著者として踏み込みが足りないと言わざるを得ない。
そう感じてしまう要素は、たぶん最後に日奈子が取った単独行動であり、それを容認し協力してしまった直斗なんだと思う。国民を想うが故に死なせたくないから犯人の指示通りに動いたという日奈子の姿だが、それは裏を返せば同僚や仲間刑事たちを信頼していないということだ。それは同僚=国民を信頼していないことと同義である。犯人が国民なら、仲間も国民。片方だけを取るというのは明らかなダブルスタンダードだ。勝手な想像だがたぶん著者はそこまで思考が至っていないんだと思う。もしそこに思い至っていれば、こういう行動をとる書き方は出来ない気がする。
作中で『相棒』を連想させるようなドラマに直斗も日奈子も好きだったという共通点が出てくるけれど、申し訳ないがこの作品において直斗は日奈子の相棒にはなり切れていない。パートナーですらない。相手が王女と言うこともあるのだろうが、ただの言いなりだ。そういった共通項を出すならば、直斗というキャラクターももう少ししっかりとしたものでないとダメだろう。
評価は、★★★(3点 / 5点)。辛辣な書評をしたが、エンターテインメントとして視た時には及第点といったところ。だが、全体的に詰めの甘さを随所に感じた。
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