掟上今日子の乗車券

作:西尾 維新 発行元(出版):講談社
≪あらすじ≫
掟上今日子―-彼女の記憶は眠るたびにリセットされる。その特性をいかし、彼女は「忘却探偵」として活動していた。そんな今日子が営業活動と称し、ボディーガードの親切守を引き連れて旅にでる。目的地もとくに決めていないという。依頼があって動くわけではないこの旅、果たしてどんな事件が待ち受けているのか。
(カバー帯より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
掟上シリーズ十一弾。ちょっと刊行ペースが落ちたかな? と思っていたら、メフィスト連載していてそれを纏めたのが本作らしい。まぁ、連載してたならしゃーないか、といったところ。
乗車券とあるが、それはまんま列車やらなにやら含めてもろもろの旅行編ということらしい。旅行編ではあるが旅情ミステリではないのが今日子さんらしいと言えば良いのか手抜きと言えばいいのか(苦笑 旅行ではあるが、その旅行を探偵稼業の「営業活動」と位置付けている辺りが今日子さんらしい。
今回は、語り部が厄介ではなく置手紙探偵事務所の唯一の雇用社員でボディガードの親切守が久々に語り部。今日子シンパである点は厄介とそこまでの大差はない感じだが、彼と違ってボディガードとしての職務というか「上司と部下」という関係性が明確にある(厄介との関係は基本的に、依頼者と探偵でしかないので)点が、厄介視点の語り部とはまた違った形に仕上がっている点だろう。
以下個別感想。
【序文、第一枚 今日子さんin寝台特急『ひらめき』】
今日子さんと一緒に営業活動として旅行に出ることとなったところからのスタート。
寝台特急なんていうのはミステリにおいては、「動くクローズドサークル」なので定番。そうした中での殺人事件。ミステリの謎の難易度自体は低めだと思う、私でもあっさり思いついた内容だったからね。
とはいえ、現実問題として(警察がまだ入っていないとはいえ)遺体の身元確認で同室だった人たちには確認するのが普通な流れだと思うので、「これはないか」と自分の中で却下したものでもあるのだけど(苦笑 いや、二人の内誰か一人でも身元確認で遺体確認したら「いえ、別人です」って言われちゃうじゃん。
あと守銭奴として名を馳せる(?)今日子さんだけど、守の分の旅費を全額出していたり、寝台列車も一等級を用意していたりと支払いは割と豪快というか必要なら渋らないんだな、と(苦笑 まぁ、ある意味で「仕事」なんだから必要経費として割り切っているのかもしれないけど。
【山麓オーベルジュ『ゆきどけ』】
次回作の序章を除けば、唯一「乗車券」という意味合いが全くないエピソード。旅行編のひと幕としては十分アリだけど。
実際に事件が起きているわけではなく、過去の事件に対する推理、あるいは妄想といった体裁のお話。受験当日、受験会場に自分の替え玉を用意してまでして抜け出して最愛の妹を殺害した兄、その動機は何か? というもの。確かに動機と言う部分はミステリにおいては軽視されがちな傾向かもしれない。つまるところ、動機なんてものは千差万別・十人十色である以上、そこを突き詰めても仕方なく、犯人を(そして読者や視聴者を)説き伏せるためには論理的に「アナタ以外に犯人足り得ない」ということを証明しなくてはいけないのだから仕方ないことなんだけど、だからこそそこを斬ってきたのが西尾維新さんなのかな、とも。
ミステリというか謎としても西尾維新さんらしい切り口だろう、これは。目的と手段の入れ替えというのは、なんとなくそんな印象がある。
【高速艇『スピードウェーヴ』】
三十分程度の距離の離島へ向かう定期便の中で起きた殺人未遂事件、というエピソード。
なんというか全体的に今日子さんの医療技術の高さに脱帽する感じだが、ミステリとしては関係ない。ミステリとしての謎と言う意味では、こちらも難易度は低め。今日子さんによって、密室だった操舵室において船長は殺害され、副船長は自殺した(どちらも今日子さんの救命措置によって未遂に変わっただが)という中で「じゃあ、動機は何か」という謎。まぁ、前述の【山麓オーベルジュ】を読んだ直後だったこともあるのだろうが、前述のようにあっさりと副船長の意図というものは理解出来た。
もっとも、最後の最後で「そこ」から一歩踏み込む辺りが痛快というか「そこまで言うか」と思えるところ。なぜ、副船長は今日、このタイミングでこんなことを実行したのか、と言う点は正解がないものだけどなかなかに興味深い。
【水上飛行機『ウォータージェット』】
今日子さんって『紅の豚』が大好きなんだ、と変なところを知ったエピソード。
ある意味で一番はっちゃけていて、旅行っぽいエピソードでもある。水上飛行機に乗りたい今日子さんが、あれよあれよと事件を見つけて突っ込んでいってアレコレやっちゃうという、これはもう探偵の営業活動にすらなってねーなと(笑
ミステリ自体はこちらも動機モノということになる。さすがに、動機モノ三連発と言うのはどうかとも思うのだが、前述のように今日子さんの意外な一面と濃ゆいキャラクター性を強く前面に出すことによって、一冊の本にまとまった中でも違和感を覚えさせないというのは、意図した部分なのかは分からないが見事な文章力だと思う(プロの方に言う言葉でもないが)。
まぁ、ミステリ自体はなんてことはないのだけどね。でも、案外この動機が一番分かりづらいかも?
【観光バス『ハイスピードロード』】
最後に帰路の途中で起きたエピソード。厄介のように殺人容疑の最有力候補にされてしまった守を、今日子が救うという形。まぁ、なんというかどうしてその発想が最初に出てこないのかと思ってしまったようなエピソードだけど(笑
なのでポイントとしては、ミステリ的なところというよりも「相手がどう受け取るかで殺人が起きることも」といったところなのかもしれない。
いや、あるいは案外過去の今日子さんの、守への評価の高さが伏線なのか?
【掟上今日子の五線譜(序曲)】
こちらはメフィスト連載していたものではなくて書き下ろしにして、次回作の序章となっている。いや、これ序章と言えるのかどうかは分からないけれど。
そしてここでレギュラーキャラである厄介登場。基本的には彼は語り部として出てくることがほとんどだから、改めて他者の視点から厄介を観ることになるが……、これは冤罪体質とかじゃなくて冤罪はもう単純に普段の厄介の言動からくる自業自得だろうな、と(爆 こんなやついたら誰だって真っ先に最有力容疑者候補になるわっwww
明らかに厄介の株が落ちるエピソードだけど、これで次回作の語り部が厄介だったらいやだなぁ(笑
評価は、★★(2点 / 5点)。キャラクターのやり取り(会話)やネタの切り口といったところはさすがの視点と面白さなんだけど、肝心のミステリとしてはかなり弱め。
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- [特集:忘却探偵(掟上今日子)シリーズ]
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