英国庭園の謎

著:有栖川 有栖 発行元(出版): 講談社
≪あらすじ≫
資産家の人知れぬ楽しみが、取り返しのつかない悲劇を招く表題作。日本中に大パニックを起こそうとする“怪物”「ジャバウォッキー」。巧妙に偽造された遺書の、アッと驚く唯一の瑕疵を描いた「完璧な遺書」―おなじみ有栖川・火村の絶妙コンビが活躍する傑作ミステリ全六篇。待望の国名シリーズ第4弾。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
火村シリーズの中でも国シリーズと言われる一冊。おそらく既刊の中では読んでいない国シリーズはおそらく最後だろう。短編集なので読みやすいところはありがたかった。
【雨天決行】
「雨天決行」などの著書で巷で有名になっていた新進気鋭のエッセイストが殺害された。死の間際、彼女がしていた電話を少しだけ耳にした友人の証言は「それはだめ」「うてんで大丈夫」という会話。それに火村と有栖川が挑む…といったエピソード。
ミステリ作家らしいといえばらしい、巧みな言葉遊びというか言葉の正確さと豊富な知識を活かしたネタ。あまりネタバレなことを書くのもあれだが、「ウテン」を「雨天」やあるいはほかの感じに当てはめるのではなく――といったところが、さすがプロの作家はアイディアの切り口が違うな。
【竜胆紅一の疑惑】
「自分は家族に殺されそうになっている」――被害妄想の強い作家・竜胆の相談を受けることになった火村と有栖川。そこで形の上だけでも竜胆の頼み通りに家族に事情聴取をする二人だが、といったエピソード。
女性の執念? 狂気? あるいは――といったところか。ミステリというほど明確な謎でもなかったとは思うが、でもまぁ放火に関しては一応謎解き要素はあったか。
謎解きを楽しむというよりも、その過程、あるいは人間関係やその中に在るドロドロな感情といったものを楽しむエピソードかもしれない。こういったものを入れられるのも短編の強みか。
【三つの日付】
三年前の殺人事件。別件で逮捕された容疑者がその殺人事件に関与している疑いが出た。否認している容疑者のアリバイを崩す鍵を握るのはなんと有栖川有栖? 三年前の日付入りの写真とサインを見せられ、有栖川は火村に問い詰められてその時のことを思い出すが、といったエピソード。
日付のズレ、それも写真と手書きのサインと言う二つの日付がある中でそれにどのように意味を持たせるか、といったところか。謎を解くことより、良くこの謎を仕立て上げたな、と言う方に感心するエピソードかな。
【完璧な遺書】
一方的な偏愛を寄せていた男は、誤って愛していたはずの女性を殺してしまった。彼は手元にある材料だけでなんとかこの殺人を自殺に偽装できないかと試行錯誤して、というエピソード。
火村シリーズでは珍しい倒叙式ミステリ。火村が最後に突いた証拠が、正直「証拠」としては弱いのがキツイ。その前のフロッピーディスク(懐かしい)の記録データとかの方がよほど確かな証拠っぽいが…。面白い短編なのだが、欲を言えばもう少し決定的な証拠を火村が付きつけられる展開を望みたいところ。
【ジャバウォッキー】
かつて火村と有栖川が捕まえた犯人からの電話。明らかに精神状態がよろしくない中で語られる彼の言葉。ジャバウォッキーとも言われる言葉遊びに卓越した者から語られる言葉とは、というエピソード。
一度読んでいるので初見の感想はこちらから。
正直、あまり初見と感想の違いはない。上手いと思ったし、火村シリーズの中では異色だな、と。
【英国庭園の謎】
自宅に英国庭園を作り上げた高級スーパーチェーン店の元創業者が殺された。しかもそれは、多くの者を招いた中での被害者お手製の「宝さがしゲーム」の最中。参加者が誰も解読出来ない中、事件解決のために呼ばれた火村と有栖川は殺人事件解決のため、まずはその宝さがしゲームから手を付けることになって、というエピソード。
表題作。一度読んでいるので初見の感想はこちらから。
改めて読んでみてもなかなかにゲスいなとは思った。暗号もそうだし、その動機も含めて。犯人が浮気をしていたとか、被害者を利用していたとかそういった落ち度があるならまだしもそうではないし。火村は犯人よりこの被害者であり元凶の内面を調べた方が研究にはなりそうだ、とすら思ってしまった。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。
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