おっさん、不労所得で帝国を導く

著:藍藤 唯 発行元(出版): KADDOKAWA(ノベル0)
≪あらすじ≫
帝庁に勤め、同僚からも好まれ、皇帝の信も厚い若手魔導師・リュウ・クレソン。しかし、彼を良く思わない一派から政争を仕掛けられ、左遷されてしまった。新たな赴任先は小麦農園。余りの落差に落ち込む…こともなく、「食いっぱぐれないし趣味に没頭出来る」と考えたリュウは、有り余る時間と、なにもしなくても上がってくる農園からの不労所得、さらにいくらでも手に入る小麦を使い、趣味の料理を追求し始めた。ついでとばかりに、暇つぶしに王都で屋台を始め、時折遊びに来る教え子達の成長を楽しみに見守りながら悠々自適な暮らしを楽しんでいるリュウ。―しかし彼は知らない。教え子達の働きによって、自らの名が今も帝庁に響いていることを。そして―教え子たちを使って背後から政治を操っていると噂されていることさえも。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
久々にノベル0レーベルから。
全三章+おまけ(プロローグ、エピローグ)という構成で、それぞれの章で担当ヒロインがいて、国家の中枢クラスにいる彼女たちが持ち込む難題を元師匠で元官僚の主人公が解決していく、と言う流れ。武力ではないが、知力と発想による俺TUEEEE系。
ノベル0としてはちょっと挿絵が多い感じがしたこと、30代などをターゲットにしたはずのノベル0なのに主人公が自分を「おっさん」と卑下すること(タイトルもだが)など、各部にノベル0というよりはライトノベルテイストが強すぎるのは、このレーベルから出す作品としてはちょっとマイナスかな、と思った。
それぞれの章での難題が最終的に上手く纏まっていく形は良いと思うし、前述のように武力ではなく知力(政策)といった部分でのみのやり取りでここまで魅せられるのであれば十分面白い。
何よりも考えさせられるのは、最後のエピローグだろう。理想論者の主人公と、合理主義・現実主義の主人公を辞めさせた重鎮とのやり取りは、見ごたえがあるというよりも考えさせる部分だ。
主人公はただ教え子であるヒロインが抱える悩みを解決したいだけだったが、その解決法が国や思想を根本から変えようとしてしまうもの――それはつまり、改革や革命に等しいものばかり。しかし、急激な改革や革命には激しい痛みを伴うと現実主義の重鎮は語る。
確かにその通りだ。例えば今の日本で言えば、原発問題がこれに当てはまる部分もあるだろう。理想論者たちは、今すぐ原発全てを停止させて原発をゼロにせよ、という。その分の足りない電力は、再生エネルギーで補えるとか市民が昔の生活に戻ればいいだけと安直に口にする。この作品の主人公はソレだ。
でも、それは理想だ。もしそれが現実に起きた時、たぶん今の日本人は耐えられないだろう。日本経済も耐えられないだろう。その理想のせいできっと日本と言う国家は沈没する。それを回避しつつ、その理想の形に十年、二十年先に辿り着くような政策をすべきだと主張するのが敵役の重鎮。
どちらが正しいか。それは、まぁハッキリとは言いづらい部分はあるのだろう。私は、自分たちの立場に置き換えた時にはやっぱり重鎮的な現実主義をすべきだと思うので、この主人公や著者の言い分には納得・賛同できない部分も多いけれど……。
とはいえ、そういった部分を考える作品にすることで、ノベル0レーベルに相応しい作品に仕上げたというのであれば、それは高く評価したい。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。
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