葉桜の季節に君を想うということ

著:歌野 晶午 発行元(出版): KADOKAWA
≪あらすじ≫
「何でもやってやろう屋」を自称する元私立探偵・成瀬将虎は、同じフィットネスクラブに通う愛子から悪質な霊感商法の調査を依頼された。そんな折、自殺を図ろうとしているところを救った麻宮さくらと運命の出会いを果たして―。あらゆるミステリーの賞を総なめにした本作は、必ず二度、三度と読みたくなる究極の徹夜本です。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
単行本としては2003年に、KADOKAWAの文庫本としては2007年に発表されているもので、2016年時点の第45刷を手に取った。表紙の帯に各ミステリー賞で1位を取ったと大々的に銘打たれていたので、そういう部分でも気になって手に取ってみた。
結論から言えば、本だから出来るトリック(作中の殺人事件に対するトリックではなく、一冊の作品としてのトリック)、といったところか。100%映像化は出来ないだろう。この手のトリックでも実は映像化している前例は、他の作品ではあるのだけどこの作品は無理だね、うん。それがいいか悪いか、というと私は良いと思う。逆に映像だから出来るトリックも(パッとは出てこないけど)あるだろうし、本や文章という媒体だから出来るトリックやミステリというものがあることは良いことだし、著者としてもそれを最大限意識してのことなのだろう。しかも、これは小説家として(百冊や二百冊も出版すれば別だろうが)おそらく生涯に一度しか使えない「変化球」であり「奇策」。著者としてはだいぶ本腰を入れた作品なのだろう。
まぁ、そういった作品ではあるのでネタバレを回避しようと思うともうほとんどアレコレと書けないのが実情(苦笑 感想書くと反転した字だらけになってしまいそう。
なので感想としては抽象的な表現に終始してしまう感じになってしまうが、ご容赦を。
まずストーリーに関してだが、前述のように一冊の本を通して最後のどんでん返しのための工夫や布石がなされている。主人公である成瀬という私立探偵の一人称で進むストーリーなので、当然語り部として成瀬の視点で描かれるが文体が幼稚な感じを強く受けるものの、それもどんでん返しへの伏線ともいえる。
ただミステリとして見たときには、やや複雑さもある。この作品、解くべき謎が二つあり、一つは成瀬の過去に遭遇した殺人事件を振り返る形で、もう一つは現在進行形で起きている殺人事件。その二つが密接に絡み合っているのならまだしもそうではなく、またインパクトとしては過去の殺人事件の方が衝撃が強いので、解くべき謎の輪郭がぼやけてしまった印象。正直、これなら過去編要らないかな、というのが本音だ。その方が事件や謎の輪郭というものはもっと良い意味でくっきりハッキリと見えただろう。
作中の殺人へのミステリもトリックとしてはちょっと微妙だなと感じたのも、そういった現代と過去を不必要に読者が行ったり来たりさせられるためそういった概要というか実態、輪郭というものを掴みづらいという部分があったように思う。
あとはそういった輪郭がぼやけて見えたのは、著者がどこまで意図していたかどうかは分からないが、中途半端な側面が強いからだろう。ヤクザについても私立探偵についてもどれも主人公を「半人前のまま辞めてしまった」と理由づけている。それは内容に「至らなさ」に対する予防線のようにも見えて……。
という内容なのでやはり最初に書いたように、一冊の本、一つの作品としてのどんでん返しに注力した作品なのだと思う。それゆえにというべきか、逆にというべきか、本としてミステリの内容は正直薄い。
これで「このミステリーがすごい!」「本格ミステリベスト10」などミステリー関連の賞で1位が取れちゃうのか、というのはこの作品や著者に、というより選んだ選考委員の人たちにがっかりしてしまう。
評価は、★★☆(2.5点 / 5点)。一冊の本として観た時の「仕掛け」は見事なのだが、ミステリとして観た時にはやや厳しい。「ミステリが読みたいから」という理由で読むことはお勧めしない。
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