脳科学捜査官 真田夏希

著:鳴神 響一 発行元(出版): KADOKAWA
≪あらすじ≫
神奈川県警初の心理職特別捜査官に選ばれた真田夏希は、知人に紹介された男性に会うため横浜駅付近の飲食店に向かった。婚活に失敗続きの夏希は、織田信和と名乗る男性に、好印象を抱く。だが、そんな甘い雰囲気を激しい炸裂音が打ち消してしまう。みなとみらい地区で爆発事件が発生したのだ。翌日、捜査本部に招集され、爆発事件の捜査を命じられる夏希。初の事件で戸惑いを覚える夏希の前に現れたのは、意外な相棒だった。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
刑事小説もあれこれと多様化を究めようとしている昨今で、脳科学の見地から行う作品が本作である。結構重版がかかっていたみたいだが期待していたのだけど……。
しかしまぁ、なんというか……なんというべきか(笑
作品はまず真田夏希という神奈川県警初の心理職特別捜査官に選ばれた女性の視点で語りが進む。そういった役職や過去の職歴から話している相手を脳科学的に分析してしまう「悪い癖」があるというのは一つのキャラクターの「味付け」としては悪くない。悪くないのだが、限度ってものがある。
最初にもう結論を言えばとにかく読みづらい。ネタバレを割けるので詳細は避けるとして、作中で真田は織田に「(貴女の理屈は)SNSを読む人への共感性に欠けている」と言われてしまうシーンがある。自虐的に、皮肉に近い意味を込めて書いているのか、そうと知らず書いたのかは分からないが、まさに「お前が言うな」的な感じで、この小説自体が「読む人に共感してもらう感覚に著しく欠けている」と言わざるを得ない。
もっと辛口に、ハッキリと言ってしまうならこの本は著者が自分の保有している知識をひけらかすために詰め込んでいるだけにしか読めなかった。
なぜって、「そこまで長々と書く必要があるのか?」と思ってしまうことがあまりに多すぎる。前述のような脳科学的要素はもちろんだが、真田のプライベートシーンではどんな食べ物を買ってどんなお酒を買って、というところまで事細かに書いてある。細かく描写することは読者に理解してもらう上では大切であることに違いはないが、それは細かく描写をする必要があってこそだ。その必要がないのに延々と描き続けるのは無意味。
例えば、キャラクターが10m先まで歩くだけのシーンでも、この著者は自分の知識をひけらかすためなら5頁も10頁も使ってしまう――そのくせ、5頁も10頁も消費したのにそれは後々の伏線にもならないただの自己満足タイプのようにすら読んでて感じてしまうのだ(実際、そうなのかどうかは私には分からないが、この作品を読む限りにおいてはそうとしか判断できない)。それでも、もしこの作品が文庫本で600頁越えとかそういう文量だけは超大作になっているのであればまだ納得したのだろうが、実際には350頁と一般的な文庫本である。つまり、そういうことだ。描写しないといけない部分の描写が少ないのに、描写しなくても良いところの描写ばかりがやたら多い。
改めて読み終えてこうして感想を書いてて「そりゃあ読みにくいわ」と自分でも思った。
近年はより特化型のキャラクターを主人公や探偵役に据えているミステリもかなり増えてきている。そのため、その分野における専門的な説明を用いるケースも増えるし本作もそんな一冊に当たるのだけど、これはあくまで「小説」であって「論文」ではなく、読む人もその多くが「一般人」であり「専門家」ではない。故に専門用語を並べるだけというのは小説として何ら意味を持たないと私は思うのだ。なぜならそれが正しいことか否かというのは、多くの一般人には分からないから。
「読んでいる人の大部分が分からない」ことを前提にどう描くか、というのがある意味でこの手の専門的、あるいは特化型探偵のミステリにおける腕の見せ所だと思う(逆に言えば古くはこの手のミステリが今日(こんにち)ほど多くないのは、ミステリにおけるノックスの十戒のような暗黙の了解みたいな部分があったからなのかもしれないが、今はそうではない。まぁ、これはミステリというより刑事モノではあるのだけど)。
そして読む限り、本作はこの腕の見せ所で著者が仕事をしていない。論文から引っ張ってきただけのような専門用語満載の文章を並べただけで物語は進んでしまうし、それが推理や捜査にほぼ直結していない。正直、心理的要素すら入って無く、ただ真田の直感で物語が進んでしまうのだ。自分の知識をひけらかすなら主人公でもある真田の言動は一挙手一投足に至るまで徹底してその知識で埋めてくれればまだ良かったのだが、そうではなく科学的な部分も何もなく感覚や直感で捜査が進んじゃダメだろ、と…。
評価は、☆(0.5点 / 5点)。キャラに魅力がなく、リーダビリティも低い。正直、これで満足してしまう著者も著者だがこれでGOサインを出してしまう編集側にも問題があるような文章構成だと思うが…まぁ、重版されているのは事実なので個人差があるとは思う。私には合わなかった、ということなのだろう。
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