警視庁文書捜査官

著:麻見 和史 発行元(出版): KADOKAWA
≪あらすじ≫
右手首のない遺体が発見された。現場に残されたのは、レシート裏のメモと不可解なアルファベットカード。「捜査一課文書解読班」班長で極度の文字マニア、鳴海理沙警部補に、出動要請が下る。遺留品のメモから身許を特定した理沙は、被害者宅にあった文章から第二の殺人現場を発見。そこには、またもアルファベットカードが残されていた。共に見つかった手描きの地図が示す所を探すと―。理沙の推理と閃きが、事件を解決に導く!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
今春からテレビ朝日系列で木曜ドラマとして実写化されると聞いて、放映前に手に取ってみた。
とはいえ、読み終えてからドラマ版のホームページをチェックすると、ヒロイン・鳴海の相棒で部下である矢代は女性へ変更され、ヒロインですら原作では31歳なのにまさかの鈴木京香さんへ変えられ、組織図もめちゃくちゃにされていて、そもそもにして原作として「ストック」がなく長編作品だったのでおそらく60分で終わるドラマとしてアレコレオリジナルになることを予想すると、正直「予習」として原作を読むことに意味はないのだな、と最後に気付いたのだが(苦笑
正直これだけ別作品に近いような設定に変えられてよく著者はOKを出したものだと、いろいろな意味で驚く。度量が広いと褒めるべきなのか、これはこれでヒットすると先見の明があったのか、あるいは自分の作品への愛着がなさすぎると蔑むべきなのか…。商業作家である以上、自分の作品が実写ドラマになること自体が今後の執筆活動において「箔が付く」のでコケたとしてもデメリットよりメリットの方が多いのかもしれないが、何となく原作好きな人からするとスタート前から納得してなさそう(汗
さて、そんな番外なことはさておいて本作。文章や文字から手がかりを見つけて捜査をサポートするという「捜査一課文書解読班」という架空の設定において、そういったものを軸にして物語を進め、謎解きをするのが本作である。
読んでみた感想としては、「あぁ、実写ドラマ受けしそうだな」と。良くも悪くも常識や論理性よりもエンターテインメント性が前面に出ていると思った。個性的なキャラクター、主人公ペアの置かれている専門的だが下等な立場、にもかかわらず周囲を出し抜いての事件解決という一連の流れ(から得られるカタルシス)、刑事モノらしいサスペンス展開と、この要素だけならテレ朝の看板ドラマ『相棒』『科捜研の女』というモノに通じる部分もある。
しかしながら、前述のようにエンターテインメント性(娯楽性)が強いため、私個人としては読んでいて萎える展開も多い。独立捜査の権限がないのに組織としてホウ・レン・ソウを無視した身勝手捜査、常識や礼儀を欠いた「こちとら警察なんだ」的な立ち振る舞い、なのに相手には常識や倫理を求める意味不明さ、一度目の失敗を三度・四度と繰り返す学習能力のなさ。そういったものが随所にある。
取り立てて最悪なのは「要は事件解決すればそれが正義」的な立ち振る舞いを主人公たちがしてしまっていることだ。実際、彼女らは序盤では与えられた、現場に残された暗号解読という仕事を放り出して現場に出て行くが、成果を出すことで「成果出てますけど何か?」みたいな姿勢だからタチが悪い。そういった彼女らの姿勢は、根本的に直近で話題になっている各省庁での公務員らの傲慢さに近しいものだと見えてしまい、余計に萎えた(まぁこれは読んだタイミングが悪かったというほかないが)。
これは私の見方でハッキリ言えば悪い意味の言葉で書いているが、一転さえエンターテインメントとして書き直すと「事件解決のために全力」で「感情論」で、盛り上がるシーンのために「何度も同じことをする」ということでもある。まぁ、私がエンターテインメント性が強いと書いたのはこういうわけで…。
これに関して言えば、それ自体が悪いことではないのだとは思う。ただ、それを読者にスムーズに読ませる力というか、読者に読んでいても不快にさせない構成力というものが本作にはなかった。だから、読んでいてそう言ったシーンが出てくるたびに引っ掛かりを覚えてしまうし、結果的に読んでいて気分が右肩下がりになってしまう。そんな印象。
評価は、★★(2点 / 5点)。アイディアや素材は悪くない。推理の展開も、正直ちょっと無理があるものではあったけれど許容範囲だと思う。ただ、決定的に著者には「魅せる力」がない。リーダビリティ、読ませる文章力というものは私なんかがスムーズに読めたくらいなのであると思うのだが…。
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