怪奇探偵 リジー&クリスタル

著:山本 弘 発行元(出版): KADOKAWA
≪あらすじ≫
1938年、ロサンゼルス。私立探偵エリザベス・コルトと、助手の少女クリスタルは、“特殊な身体”と知恵を駆使し、奇怪な事件の数々に立ち向かう!パルプマガジンの表紙絵そっくりな惨殺死体、幻の特撮映画上映中に消えた人々、甦る十七世紀イングランドの錬金術…。型破りな謎と解決法、全編を貫くマニアックな薀蓄に驚嘆必至の5篇を収録。物語を愛するすべての人に贈る、痛快で風変わりなミステリー!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
2015年末に単行本として出た作品の文庫化。あまり時系列として現代以外の作品は読者として想像力が至らないため読まないのだが(外国が舞台ならなおのこと)、何となく惹かれて。
全五篇の短編集。舞台は1938年ロサンゼルス。とある事件により不死身の肉体を持つ探偵リジーことエリザベスと、とある事故によって普通の人の眼には見えない透明人間の助手・クリスタルが遭遇する五つの事件を描いているのが本作である。
まぁこれで分かるようにオカルトミステリである(そういうジャンルがあるかは分からないが)。ただ場合によってはミステリというよりサスペンスという要素が極めて強いエピソードもある(特に最後のものなんかは)。まぁ、どちらにせよオカルトということだ。
著者の色濃い趣味なのか、オカルトへの造詣はもちろんのことそれ以上に映画に対する造詣が深い。それも特撮映画。ある種のマニアがその知識を如何なく発揮して作られた一冊というのが率直なところだが、その割に読みにくさはあまりなくリーダビリティが高いのでサクサクページが進むのはマニアとしての情熱と読ませる力との両立が出来ている稀有な作家さんなのかもしれない。
ちょっとエピソードごとの色合いが違うので、以下エピソードごとに短評。
第一話「まっぷたつの美女」
一番ミステリらしいミステリをしているのが最初のエピソード。また読み始めてすぐはリジーやクリスタルの特殊な体質を読者は知らないので、それを知る導入的な意味合いが強いエピソードでもある。まぁ、潜入捜査あり、推理あり、オカルトありと本作におけるスタンダードエピソードだろう。
第二話「二千七百秒の牢獄」
とあるオカルトパワーによって映画の中に閉じ込められてしまった依頼人とリジーをどうやって救うか、というエピソード。本来ならもう少しミステリ要素が強くなっても良いのだが、それよりも著者の映画愛というかマニアっぷりがいかんなく発揮されているエピソード。
第三話「ペンドラゴンの瓶」
リジーの正体と出生の秘密を暴くエピソード。あまり語り過ぎるとネタバレになってしまうので加減が難しいところではあるのだが、かなり切なく苦しい展開ともいえるかもしれない。オカルトとしては「不死身の生物を倒すのはどういう方法があるか」を一つ提示してくれている例でもある。
第四話「軽はずみな旅行者」
ぶっちゃけるとタイムトラベラーの話。タイムトラベル(時間旅行)による過去への介入と改竄の結果がどうなるかというのは、理論や設定でいろいろ別れるところではあるのだが、オカルトとしては外せない題材だったのか割と長い文章であれこれとやってくれている。読み応えがあるエピソード。
第五話「異空の凶獣」
三話とは対照的に今度はクリスタルの正体と出生の秘密を暴くエピソード。オカルト要素が極めて強く異世界の、それも人を喰らう獣との戦いを描いたサスペンスと呼ぶ方が適切。アクションというよりサスペンスなのだが、獣を倒すシーンのアクションはなかなか面白い。リジーの出番がほぼなくクリスタルの独壇場であった。
評価は、★★★★★(5点 / 5点)。主人公二人(リジーとクリスタル)の出生に関してはかなりヘヴィだが、それを下地にしつつもオカルト要素を孕みつつライトに描くという稀有な作品になっていてとてもバランスが良くて面白かった。続編も期待したいところだが、前述のように主人公二人の秘密が暴かれてしまっているのでネタ的には厳しいか。
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