月光ゲーム

著:有栖川 有栖 発行元(出版): 東京創元社
≪あらすじ≫
本書は、閉ざされた空間で連続して起こる殺人事件がメインテーマである。第一の死体の傍らにYと記されたダイイングメッセージが残されており、そこから「Yの悲劇'88」というきわめて魅力的な副題が生まれてくる。結末近くには型通り読者への挑戦状が挿入されており、クイーン・タイプの謎解きミステリを愛する読者には(かく言う筆者はもとより)恰好の贈り物と言えよう。――鮎川哲也
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
江神シリーズの最初にして、著者である有栖川有栖さんの長編デビュー作でもある(らしい)。私はどちらかといえば実写ドラマから入る形で、火村シリーズの方を愛読している。
改めてここで言及しておきたいのは、有栖川有栖さんが巧みに作った二つのシリーズの妙といったところ。一つは、小説家・有栖川有栖が助手として大学時代からの盟友であり大学の助教授(現在の准教授)の火村英生が探偵役を務める火村シリーズ。もう一つが本作を始めとした、大学生・有栖川有栖が所属したサークルEMCの部長・江神二郎が探偵役を務める江神シリーズ。これらは語り部の立ち位置から「作家アリスシリーズ(火村シリーズ)」「学生アリスシリーズ(江神シリーズ)」とも言われる。
江神シリーズは最初に最新の短編集から読んでおり、当時は設定のことも知らなかったのだが、実はこの両シリーズの「有栖川有栖」(と当然著者である有栖川有栖)は全くの別人であるということだ。当初は、学生アリス⇒作家アリスと繋がっているのかと思っていたがそうではないらしい。
実際には、火村英生の助手を買って出ている有栖川有栖が小説家として執筆しているのが「学生アリスシリーズ」で、EMCとしての活動でなのかそれ以外なのかは不明だがそこで学生の有栖川有栖が執筆しているのが「作家アリスシリーズ」ということだ。
さて、本作。本格派としての名に恥じない要素が多い作品。もちろん本格派だからといって全てが完璧というわけではないが、本格派としての読み応えのある作品にはしっかり仕上がっている。
とはいえ欠点もある。まず、致し方ないことでもあるのだけど、出題編が長すぎる。350頁前後の文庫本で300頁までは出題編である。もちろん、読者に「解けるか?」と挑戦状を叩きつける作品であり、クローズドサークルを舞台とした本格派(新本格派)である以上、読者に対して必要な情報を上手くカムフラージュしながら出題するために文量が多くなることは致し方ないことではある。なのでそこは個人差が分かれる部分でもあるとは思うが、その300頁ほどの出題編をどれくらい「読ませる」力があるかという部分がさすがにデビュー作では厳しいところもある。
なのでよって読者にも読む力、というよりも読む根気が必要だし、当然著者にも読ませる力が必要となる。ただ商業作品である以上、後者の力はもっとあって然るべきだろう。つまるところの読者を引き込む力であり、それはリーダビリティでもある。
本作は著者の長編デビュー作であるので、当時の文章力ではこのリーダビリティが限界だったのだろう(現在は、主に火村シリーズで中・長編の作品も読んでいるが、惹き込まれる作品も多々あるので)。
作品としてこの事件を大前提として進めるようなシリーズではなく、主要人物(江神・アリス・織田・望月)の存在と設定だけが決まってあとは時期をズラすことによる、ある種のオムニバスにしている中では仕方ないけれどあれだけの中を生き抜いたヒロインが実は彼氏持ち、というのは随分と手厳しい結末にしたな、と(苦笑 それを含めて後の短編集ではだいぶアリスは参ってしまっていたわけだし、そういう部分で「読了感」と言うか読み終えた後の心象みたいなものは個人的に決して良くないというのもちょっとマイナス。まぁ、人が殺された事件で誰かと誰かだけがハッピーエンドを迎えるっていうのも、理屈で考えればなんかこう言葉にし辛い複雑な部分ではあるけれど…。
評価は、★★★(3点 / 5点)。
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