妃は船を沈める

著:有栖川 有栖 発行元(出版): 光文社
≪あらすじ≫
「妃」と呼ばれ、若い男たちに囲まれ暮らしていた魅惑的な女性・妃沙子には、不幸な事件がつきまとった。友人の夫が車ごと海に転落、取り巻きの一人は射殺された。妃沙子が所有する、三つの願いをかなえてくれる猿の手は、厄災をももたらすという。事件は祈りを捧げた報いなのだろうか。哀歌の調べに乗せ、臨床犯罪学者・火村英生が背後に渦巻く「欲望」をあぶり出す。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
火村シリーズ。
本作は、「妃」と呼ばれた女性・妃沙子を中心とした中篇二つとその間を繋ぐ幕間という珍しい構成になっている。著者自身も稀有なパターンであることを認めているので、火村シリーズの中でも新鮮な気持ちで読めた。
【猿の左手】
最初の中篇であり、発端。個人的にはミステリーとしては、こちらのトリックの方が好きというかインパクトがあったかな、と思う。それが可能なのか、というのはまぁやや疑問ではあるけれど。
珍しい点としては、本作としては実在する他者の有名な作品『猿の手』を題材というかたたき台みたいなものにして議論を展開、そこから推理が進むという展開にしているところだろう。その断わりはあとがきならぬまえがきで著者が書いているくらい。『猿の手』という有名な作品を、どう読み解くかという読解はなかなかに興味深いところでもあったし、そこからこのトリックを看破する流れというのは(まぁ、フィクションなので強引さが否めないのは仕方ないが)それでもスムーズだったと思う。
【残酷な揺り籠】
新キャラとして女性刑事・コマチさん登場。といってもドラマ版のコマチではなく、高柳 真知子というキャラクターだが。
地震という想定し得ないことが起きたことによって計画された殺人にどのような破たんが起こり、そして探偵役はそれをどう突いて真相へ辿り着けるか。というのが、まぁこの中篇の結果的な主たるテーマなのだろう。もっとも、著者のまえがきでの語りぶりでは先にトリックや構成が思い浮かび、そのキャスティングとして最も適していたキャラクターが過去に描いたキャラクターだった、ということっぽいので、そちらの方が原点なのだろう。
もっとも、最初から三発発射された銃弾(うち、二発は被害者に命中)の内、薬きょうが二つしか見つかっていないのだから最後の一発の弾痕から発射方向とか特定出来ればもっと早く犯人に辿り着けそうなものだったが(苦笑 個人的には最初からそこに誰も言及しない辺りが本格ミステリとしてはちょっと「抜け」てる部分かな、と勝手に思ってしまった。
評価は、★★★(3点 / 5点)。前篇のミステリとしてのインパクトは、フィクションのミステリとしては在り来たりと思われがちなトリックながらになかなかのインパクト。
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