虚ろな十字架

作:東野 圭吾 発行元(出版):光文社
≪あらすじ≫
中原道正・小夜子夫妻は一人娘を殺害した犯人に死刑判決が出た後、離婚した。数年後、今度は小夜子が刺殺されるが、すぐに犯人・町村が出頭する。中原は、死刑を望む小夜子の両親の相談に乗るうち、彼女が犯罪被害者遺族の立場から死刑廃止反対を訴えていたと知る。一方、町村の娘婿である仁科史也は、離婚して町村たちと縁を切るよう母親から迫られていた―。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
知人に薦められたので読んでみた。裏表紙のあらすじだけはチェックしていたけれど、薦められなかったらたぶん手には取らなかった作品。
さて、本作は裏表紙(あらすじ)の通りで、テーマとしては死刑制度の是非あるいは犯罪者の罪の償い方、もしくは被害者遺族に残る一生残る傷といったところか。
簡単に書けば、確かに死刑制度の是非については読めばある程度自分なりの考えをする作品だろう。過去の経験から「目には目を」ではないが「人を殺した犯罪者には死を」(意訳)とすら言う小夜子、そんな彼女に間接的ながら「何十年もその十字架を背負って自分の人生をかけて償ってきた人もいる」(意訳)という町村の娘・花恵。どちらかが正しいというよりも、割とどちらも極論なので読者としてはその中間なり妥協点なりを考えてしまうかもしれない。
そもそも「死刑じゃないと遺族は救われない」とかそういった言葉を多々本の中では目にしたけど、そもそも刑罰というのは遺族への救いや謝罪のためではないはずで、量刑によって遺族が救う・救われるという感覚があることが間違っている……と安易に書けてしまうのは、私が被害者遺族になったことがないからなのだろうか。
ただ、私の読後のメインの印象としてはそうした本来意図したテーマであろうものではない部分に向いてしまった。
それが、「探偵は誰も幸せには出来ない」ということ。
「探偵は」というとやや誤解を生むかもしれないが、より具体的に言うならば「他人の秘密を暴くことは~」というところだろう。結局、他人の秘密を無理矢理暴いた結末がこの作品そのものだと思ってしまうのだ。一人は殺され、一人は(描かれていないが)おそらく職を喪い実の両親や妹とは縁を切られ、一人は自分と父親が血がつながっていないことを遠くない未来に知り、一人は自分が殺人者の汚名を被ってでも守りたかったものを何一つ守れない結末になる。強いて言えば(ネタバレしないように名前しか出さないが)井口と言うキャラはメンタル的には救われるのかもしれないが…。
もちろん暴かなければいけない秘密や嘘もあることは否定しない。だけど…ね。別に読んでいてカタルシスとかをこの作品に求めているわけではないし、そういう作品ではないことも理解はしているのだけど、他人の二十年近く抱えた秘密を暴き出した主人公であろう中原は特に何をするわけでもない感じだし…。
この作品に救いを求めるのはおかしいかもしれないけれど、せめて元妻が殺された本当の理由が知りたいという一時的な願いの果てに他人の秘密を結果的に白日の下にさらけ出した責任なり覚悟なりは最後に遭っても良かったんじゃないかと思ってしまう。他人の秘密を暴くだけ暴いて自分だけが日常に戻るという結末は、あまりに身勝手だと思ってしまった。
評価は、★★(2点 / 5点)。考えさせられる内容であり、テーマであることは間違いない。リーダビリティも高いので内容の重さの割にはページをめくる手は重くない。ただ問題提起をして投げっぱなしで終わった感じは否めない。「風呂敷を広げるだけ広げたけど上手くたためなかった」と言う印象。
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