純喫茶「一服堂」の四季

作:東川 篤哉 発行元(出版):講談社
≪あらすじ≫
鎌倉にひっそりと佇む喫茶店「一服堂」の美人店主・ヨリ子は極度の人見知り。だが未解決事件の話を聞けば、態度豹変、客へ推理が甘いと毒舌のつるべ打ち。そして並外れた思考力で、密室の「十字架」磔死体など四つの殺人の謎に迫る。愛すべきキャラ、笑い、衝撃トリック満載の傑作短編集。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
喫茶店を舞台にし、持ち込まれた事件を安楽椅子探偵形式で解く極度の人見知りなオーナー兼店長「安楽椅(ヨリ)子(と書いて、「あんらく・よりこ」と読む)」が解く、という短編集。
なのだが、実際には短編集ではなく「一冊の本」として完成されているので、短編集と言う呼び方が正しいかは難しいところ。最後の「どんでん返し」を考えれば、一冊の長編と考えた方が良いかも。
タイトル通り、春夏秋冬それぞれで起きた事件がテーマとなっている(そして、それが最後の「伏線」と「ミスリード」になっている)。そうした中で、春・夏と十字架絡みの事件が二つ続いたので、読んでいて「え? まさか四つの季節全部十字架絡みなのか?」と思ったが、そんなことはなかった(苦笑
正直、トリックの出来云々は別にして春・夏と十字架を連発したなら秋・冬も十字架を貫き通して欲しかったな。その方が「(出来はともかく)十字架絡みで四つのトリックとか良く考えたものだ」と感心したのだが…。
また、トリック面のことを書かせてもらうなら、夏・秋も死体の遺棄の仕方と言う部分で実はトリックが似通ってしまって普通に読んでいてもたぶん秋編はあっさりトリックが分かってしまうのもやや難点か。全体的なミステリーの完成度としては……60点くらい? 春・秋に関しては分かりやすく、夏もそこそこ。冬はなんというか時代錯誤なところを利用しているので読者の年齢と、そこの機転がきくかどうか。そういう意味で冬編のトリックは、いろいろな意味でしっかりと練られていた、と言えるか。
キャラクター力は相変わらずの東川作品だけあって高め。ややヨリ子のキャラクターが奇抜過ぎというかぶっ飛んでいるが、まぁこれも味だろう。
さりげなくエピローグもしっかりしているので、一冊の本でそれぞれ出て来たキャラクターのその後もちゃんと描かれているのが凄い。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。ミステリーおよびトリックとしては及第点だが、時系列を巧みに操ったどんでん返しは評価したい。あの結末なら続編をやるつもりもおそらくないのだろうし、「一冊の本」としてしっかり完結・区切りをつけているところも高評価。
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