F(エフ) 霊能捜査官・橘川七海

著:塔山 郁 発行元(出版): 宝島社
≪あらすじ≫
捜査一課の敏腕女刑事・橘川七海は、事件で負った重傷による長い昏睡を経て、霊の姿や声を認識できる特異体質に目覚めた。難航する未解決事案を捜査する「重大事案対策班」の班長となった七海は、被害者が行方不明のまま犯人が事故死した誘拐事件をはじめ、死者のみが手がかりを知る事件に立ち向かう―。生者と死者の両者を救う、この世でただ一人の刑事が繰り広げる霊感サスペンス。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
久しぶりに、宝島社の「このミス」大賞シリーズの一冊を手に取ってみた。
重傷による長い昏睡を経て霊感が研ぎ澄まされ、霊の姿や声を認識出来るようになった橘川七海は、その特異な能力を活かすように言われて…というストーリー。あらすじにあるようにミステリではなくサスペンス。
設定として工夫されているのは、霊を知覚し交流を持てるという強い霊感の特異体質を持たせながら、それが必ずしも万能ではないということを強く表現している点だろう。「霊が認識出来る一方で、常時霊が見えるため生きている人間と死んだ人間の区別がつかない上に声も聞こえる」「人間と同じでコミュニケーションが取れる霊もいれば取れない霊もいるし、良い霊もいれば付きまとったり嘘をついたりする悪い霊もいる」「死んだからといって必ずしも幽霊になるとは限らない(殺された被害者に遭えるとは限らない)」などが挙げられる。実際、作中で「携わった九件中、勝敗は二勝七敗」と万能ではないことが明記されてる。
万能ではない能力。けれど他に類を見ない能力。それをどう刑事小説として落とし込むかというところに終始、配慮があるような気がした。
ストーリーはややダーク気味かな。刑事モノとしてはこれくらいが普通かもしれないけれど、「ざまぁ」という終わり方もあれば不完全燃焼な終わり方もあって、そこは良くも悪くも現実主義的。特殊な力を得てしまったが故の橘川の苦悩や葛藤、同時にたった二人の「重大事案対策班」の相棒にしてただの普通の警察官・城ノ内の普通だからこその苦悩や葛藤という部分の掘り下げは良かったと思う。
中盤以降、FBIでプロファイリングを学んだ夏宮が加わることで、プロファイリング観点からの描写もあって読み応えは増える。まぁ、橘川の捜査上では意味を持たず、どちらかと言えば読者に意味を持たせる感じだけどね。
評価は、★★★(3点 / 5点)。死んだ被害者らと接触し会話が出来るからといって万能ではない、というところに終始し傾注したことでファンタジー的な霊能力と現実的な警察小説を融合させている。ちょっとハードな内容というか書き方にダークさがあるので、やや人は選ぶかもしれない。
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