神様の裏の顔

著:藤崎 翔 発行元(出版): KADOKAWA
≪あらすじ≫
神様のような清廉潔白な教師、坪井誠造が逝去した。その通夜は悲しみに包まれ、誰もが涙した。…のだが、参列者たちが「神様」を偲ぶ中、とんでもない疑惑が。実は坪井は、凶悪な犯罪者だったのではないか…。坪井の美しい娘、後輩教師、教え子のアラフォー男性と今時ギャル、ご近所の主婦とお笑い芸人。二転三転する彼らの推理は!?どんでん返しの結末に話題騒然!!第34回横溝正史ミステリ大賞“大賞”受賞の衝撃ミステリ!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
実は初版が出た頃にも気になっていた一冊だったんだけど、最近近所の書店で大々的に置いてあったので改めて手に取ってみた。
神様のような元教師・坪井が亡くなった。その通夜に集まったのは、喪主を務める長女と補佐の次女、教師時代の教え子たちや同僚、ご近所の主婦にオーナーをしていたアパートの店子…そんな彼の生前に少なからず関わりのあった人たち。その人たちの周囲には決して軽くない不幸があったのだが、それは犯罪の可能性すら見え隠れする不自然な事故などによって解決していた。そのことを知った彼らは推理していくのだが、という感じ。
全体として通夜のわずか数時間にピンポイントでスポットライトを当てるという舞台装置が見事。描きようによってはもっと前後に引き延ばすことも出来ただろうが、通夜という一夜に限ったからこそこのテンポの良さを生み出したと思う。
物語は序盤、全く違う立場の人たちが坪井との思い出を回想していくシーンが最初は続いていく。そうした中で自分のみに降りかかった不幸とその顛末が読者に明かされ、そしてそこに一人一人の立場では見えない「事実」が少しずつ読者に明かされていき、中盤にはついに劇中の人物たちも複数人がお互いの話を突き合わせることで少しずつ真実は何かと推理していく、という流れ。
明確な探偵役がいないタイプの、珍しいミステリーだがしっかりとミステリーをしているところも凄い。先に挙げた「一夜」に限ったことによるスピード感、シリアスさとコミカルさの両方を埋め込んだ著者の文章力の高さのおかげでリーダビリティも高くて、サクサク読めてペラペラとページが進んでいく。
ただ、最後の30ページくらいの姉妹による真相告白は正直どうなのかな、と思ってしまった。確かにインパクトがある終わり方だ。どんでん返しからのさらなるどんでん返しでもある。
けれど、この30ページくらいで一気にリアリティが消えた。いや、別に創作物にリアリティなんてものを求めてはいないのだけど、それでもここまでの展開を良くも悪くも壊す告白だ。
せめて、この姉妹が実は父がしょっちゅういろいろなことを愚痴っていて、それを裏で処理してきたというのならまだわかるが、まさかの多重人格オチではね。
オチもそうだが、これがまかり通るようだとこの世界の警察はよほどの無能なのかとも思ってしまってそこにリアリティのなさを余計に感じたのかもしれない。
確かにネタとしては面白い。けれど、肝心かなめの物語の「終わらせ方」には疑問が残る。せめてこの「姉妹」に相応しい結末が用意されているとまた違ったが(例えば、この登場人物の一人・斎木が警察官でうっすら姉妹に疑念を抱いて最後の告白を盗みぎぎしていて、とか)、そういうのも一切ないしね。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。最後の30ページ前までくらいなら★5つでも良いほどのネタと文章力とユーモアに溢れた作品だったが、個人的にはこの真相と終わり方には賞賛し切れない。
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