マレー鉄道の謎

著:有栖川 有栖 発行元(出版): 講談社
≪あらすじ≫
旧友・大龍の招きでマレーの楽園、キャメロン・ハイランドを訪れた火村と有栖川。二人を迎えたのは、舞い飛ぶ蝶ならぬ「殺人の連鎖」だった。ドアや窓に内側から目張りをされた密室での犯行の嫌疑は大龍に。帰国までの数日で、火村は友人を救えるか。第56回日本推理作家協会賞に輝く、国名シリーズ第6弾。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
火村シリーズ、その中でもとりわけ「国名シリーズ」とされるシリーズの第六弾目の作品。
舞台はまさかの海外。そこで起きる殺人事件。それも密室。そしてその嫌疑は次第に旧友・大龍に向いていって、という感じ。まぁ、あらすじの割には、大龍に嫌疑が向かうのは本当に最後の最後の方なだけで、個人的にこのあらすじならもっと序盤から疑われてしまった旧友を救うためにアレコレと二人が調査に乗り出すことを考えていたので、そこはやや肩すかし。そこはタイトルも同じか。『マレー鉄道の謎』というタイトルだが、実際には鉄道で起きた事件の謎を解くわけではない(全く無関係、というわけでもないのだが)。
ただストーリーは相変わらず地に足がついていて安定している。火村と有栖の観光旅行から始まっての旧友との再会。そこでまさかの密室殺人に出くわし、行きずりのまま現地警察にも少しずつ協力していく中、第二、第三の殺人が…という形。きちんと表現が出来ているか分からないが、一歩一歩ちゃんと頂上目掛けて登山している感覚、かな。下手なすっ飛ばしとかそういうのがない、という意味で。
その分だけ、真の黒幕への因果応報や制裁がないままの終わり方というのは「無事登頂出来たけど、ご来光は臨めなかった」というやや不完全燃焼さもある。
全体的に火村シリーズとして完成度が高い部類に入る作品だと思うが、欲を言わせてもらえば二つだけ。
一つ目は海外が舞台の割に登場人物に日本人が多すぎること、か。まぁ、マレーシア辺りだとこういうこともあるのかもしれないし、いかに火村が英語に堪能だったとしても読み手の共感を引き出し辛いという部分もあっての判断かもしれないが。
二つ目は最初の事件の密室の謎だけで引っ張るにはややボリュームを出し過ぎたかな、というところ。もちろん第二、第三の殺人でも謎はあるけれどやや小ぶりな感じで、結局最初の密室の謎で事件解決・犯人特定みたいな形になっていることを考えればもう少し推敲やシェープアップは出来たかな、と。
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。結末にやや不満もあるものの、概ね満足できる一冊。火村シリーズが好きな人になら薦められるし、本格ミステリ好きでもある程度楽しんで読めるのではないだろうか。
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