臨床真実士ユイカの論理 ABX殺人事件

著:古野 まほろ 発行元(出版): 講談社(タイガ文庫)
≪あらすじ≫
言葉の真偽と虚実を判別する瞳を持つ臨床真実士、本多唯花の元に届いた挑戦状。差出人ABXの予告通り、赤坂で頭文字Aを持つ少年が殺された。連続殺人を勝負に見立て、ABXは唯花を挑発する。一週間後、第二の殺人が起こり頭文字Bの女性が被害者となる。現場に残された、犯人の署名ともいえる遺留品の意味は?ABXの仕掛けに隠された嘘を、唯花の論理が解き明かす。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
『臨床真実士ユイカの論理』の続巻。前作の評価は決して高くなかったが、まぁ一応「今後に期待」と評しもしたのでどうなったかな、と。
結論から言えば、だいぶ読みやすい形へと昇華されていると思う。以前に比べると「真偽-ホントウソ」や「諾」などの個性はあるものの読んでいく中で多用されるとウザイ個性はだいぶ要所要所で使われるように洗練されており、その分だけ普通の文章がちゃんと続いていくので読みやすさは「読むリズムやテンポを崩さない」という意味で格段に向上しているように感じた。
ストーリーだが、事件編は個人的には満足の行くものだった。「満点」と言ってしまうと難しいところもあるが、良く出来ている事件編であり出題編になっている。本作では、古典的なミステリのように事件編と解決編の間に「作者からの挑戦状」が出ている。正直、私は解けなかったけれど、本気で解く気合がある読者なら十分に解けるだけの必要な要素は散りばめられていたはずだ。
一方で解決編には不満も残る。確かに論理的な思考、判断推理的な展開がこの作品らしさではあるし、最大の色ではあるものの強引さは否めない。確かに隠された関係性(ミッシング・リング)を考えれば、そう言った偽装があってそれを破るという手続きは必要なのだけれど、最終的な結末含めてさすがにちょっと小さな枠の中に収束し過ぎたかな、と。
「結局みんな身内でした」的なトリックは驚きはあるものの一方でご都合主義過ぎて萎えてしまう側面もある。何よりそのネタを前作でこの作者は一度使っている。前作ではご都合主義的になりそうなところを上手く軽減させていたが、さすがに立て続けに広義の範疇では同じネタを使ってしまった二番煎じな点、そして前作ほどご都合主義的な要素を排せなかった点はマイナス。
キャラクターは安定している。ただ、今回読んでいても思ったが唯花の異能のデメリットはやはり設定上ないほうが良かった気もする。「必要以上にカロリーを消費するから糖分が欲しくなる」程度ならともかく、それが命にかかわっているというのはそうとは思えないほど無駄遣いや乱発が多いと、苦笑いしか出てこない。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。真相のネタが広い意味で前作の使い回し、キャラの設定など一部に不満も残るが、全体的に前作よりも読みやすく仕上がっていて技量が大きく向上していると感じられる一冊。
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