怪しい店

作:有栖川 有栖 発行元(出版):KADOKAWA
≪あらすじ≫
推理作家・有栖川有栖は、盟友の犯罪学者・火村英生を、敬意を持ってこう呼ぶ。「臨床犯罪学者」と。骨董品店“骨董 あわしま”で、店主の左衛門が殺された。生前の左衛門を惑わせた「変な物」とは…(「古物の魔」)。ほか、美しい海に臨む理髪店のそばで火村が見かけた、列車に向けハンカチを振る美女など、美しくも恐ろしい「お店」を巡る謎を、火村と有栖の名コンビが解き明かす。火村英生シリーズ、珠玉の作品集が登場。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
火村シリーズ、その最新文庫版。
全体としてはいろいろな毛色がある短編を集めた作品集、という形。一つ一つのエピソードは相応の水準だと思うので、クオリティは高いと言って良いと思う。ただいろいろな毛色があるので、裏を返せば人によっては好悪がハッキリ別れてしまうこともあるかも。特に本格ミステリーを好む人だと若干、評価は分かれるかもしれない。
以下、個別感想。
【古物の魔】
骨とう品店の店主が殺害された。不自然に中途半端に放置された遺体が意味するものとは、というエピソード。ミステリーとしては王道というか本格的な内容とネタだったと思う。
何気なく冒頭で出て来た燭台の意味、中途半端な放置・遺棄された遺体の意味。珠玉の出来。
【橙火堂の奇禍】
もしその本が買いたいなら十日後にまた来てください。そんな奇妙な商売をしている古本屋が強盗にあった。そんな話を聞いた有栖は、火村にその話をするのだが、というエピソード。
形式的には安楽椅子探偵形式。人が殺されたわけではないが、前提条件である「十日後にもう一度来店する」という条件を上手く使ったエピソード。まぁ、都合よすぎと言われればそれまでだが。
【ショーウインドウを砕く】
零細芸能事務所に属していた元タレントが殺された。実行した事務所の社長の前に現れたのは臨床犯罪学者の火村と助手っぽい有栖だった、というエピソード。
文庫化される前にTVドラマで実写化されていたエピソードなので内容を知っていたため、これだけちょっと感じ方が違った。いや、あの実写ドラマ、忠実に再現されていたんだなと感心したんだけどね。
【潮騒理髪店】
火村は論文を書くため今は刑期に服している犯罪者の故郷を訪ねていた。田舎町だったがために帰りの電車までの二時間弱という時間を潰そうと、火村は理髪店に入った、というエピソード。
こちらは人が死なないどころか暴力沙汰すらない、火村シリーズでは比較的珍しい日常系のミステリ。正直なところを言えばちょっと詰めが甘い感じがするというか、呪いたい相手の髪ほしさにやったっていうのはちょっとやっつけな結末な気がしていて、もっと踏み込んだ展開が欲しかった。
【怪しい店】
表題にもなっているエピソード。路地裏にこっそりと営業していた「みみや」という店。人から悩みを聴くだけという仕事ではあったがそこそこの需要はあったが、その店主が殺害された。その店主の素行を洗うとアクドイこともしていたようで、というエピソード。
人の二面性を示すかのようなエピソードで最後までどう解釈するかは人それぞれなのかもしれない、と思う。まぁ、こちらも結末としてはちょっと都合が良い気もしたが…。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。やや外れかなと思うエピソードもあるが、安定の火村シリーズの短編集と言える一冊。
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