傷物語 III 冷血篇 感想

≪あらすじ≫
ドラマツルギー、エピソード、そしてギロチンカッター――
怪異の専門家・忍野メメの助力も得て、3人の強敵との戦いに勝ち抜いた阿良々木暦。
彼はついに、吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの
四肢を奪い返すことに成功する。
すべては、普通の人間に戻るため……。
しかし再びキスショットのもとを訪れた暦は、吸血鬼という存在、
その恐るべき本質を知ることになるのだった。
決して取り返しのつかいない自分の行為を悔やみ、そしてその顛末に困惑する暦。
後悔にさいなまれる彼の前に現れたのはほかでもない、暦の「友人」羽川翼だった。
そして彼女が暦に告げた、ある提案とは……。
(公式ホームページより抜粋)
≪感想≫
傷物語後篇となる「冷血篇」。原作未読なので解釈として正しいかどうかは分からないが、原作未読の立場からこのアニメを観た時に感じたこと、解釈出来たことと思って読んでいただければ幸いだ。
さて完結編だけあって物語としての起承転結は三篇の中でも最も良かったし、考えさせられる要素もあった。っていうか、中盤はただのラブコメのエロシーンだった気もするがw まぁ、そういう部分で作品としてのバランスを取っているのだろう。
考えさせられる要素だが、キスショットは吸血鬼。それも人食の。暦が助けたのはそんな存在だった。キスショット――怪異の側からすれば「助けた」ことだが、人間側からすれば人類を捕食するという天敵を助けるという「裏切り」だったわけだ。キスショットはあのまま死んでいた方が世界中の人間のためだった。
この世に勧善懲悪なんてものはないという皮肉だし、見方を変えれば善と悪は容易に入れ替わるという具体例でもある。旧来シリーズを観ている者にとってキスショット――忍野忍は愛すべき主要キャラクターだ。だからどうしてもそんな感覚や印象を抱かないけれど、一歩引いて冷静になれば彼女は人の血を吸うどころか捕食までしてしまう最強の吸血鬼。それをせっかく退治できそうだったところを邪魔したのが、他でもない阿良々木暦だったわけだ。
今作のポイントはただ一つ、「自己犠牲」だと思っている。
キスショットを救ったがためにギロチンカッターはキスショットに喰われ、これから彼女は多くの人を喰うだろうことから自ら太陽の下へと出て焼身自殺を図ろうとした暦。
そんな暦を友人として(異性として?)救いたいと願い、暦に「食料として観てしまうようになる」と言われても「なら食べれば良い」「阿良々木君一人助けるのならこの身一つで十分」と自らの身体を差しだそうとした翼。
暦がしたことの真意を知った上で、それでもそれを告げず、最終的に暦が人間に戻ることでキスショットが滅びてバランスが取れるようになると他人へ罪悪感を押し付けたかもしれないメメ(まぁこれは想像だけど)。
そして、最初の眷属を自ら死ぬことで人間に戻してやることが出来ず、退屈によって死に場所すら求めていた結果、暦のために死ぬことで彼を人間に戻そうとしたキスショット。
それぞれが誰かのために自らの命や存在だったり、あるいは罪悪感だったりを自ら被ろうとしていた。ただ物語の結末はそうではなかったわけだ。従来シリーズを知るものなら、結末をわざわざ隠す必要もないだろう。原作未読での解釈なのでこれで正しいかどうかは分からないが、
阿良々木暦は人間に戻れず吸血鬼のわずかな力を宿し、
キスショットは死ぬことも完全な吸血鬼のままでいることも出来ず微々たる力しか残らず、
忍野メメは人間として吸血鬼の恐怖とリスクをこの世に残し、
そして羽川翼はこの一件で阿良々木暦の命の恩人となったことによってある意味で彼と結ばれる道は断たれたのだと思う。
メメが提案したように、暦が望んだ「誰もが幸せになる結末」ではなく「誰もが不幸になる結末」。でも、それはそれぞれに自己犠牲をしようと考えた者たちへの罰でもあった気がするし、同時に作者(西尾維新さん)からの自己犠牲という行為の否定という意見にも見えた。
確かに自己犠牲と言うのは、特に日本人の感性にハマって美しいものなのかもしれない。けれど、それはとてもいびつなものなのかもしれない。
誰か一人に不幸の全てを押し付けるような自己犠牲なら、みんなで少しずつその不幸を分担して分散させるような結末があってもいいのではないか。
私にはそんな風に言われているような気がした。
キャラクター的には相変わらず少数だな、とw この時間をわずか四人だけで物語を回しているのだから原作も凄くコンパクトに纏まっていたのだろう。
個人的に最も歪さを感じたのは翼かな。怪異へ首を突っ込むこともそうだけど、暦vsキスショットの場面に自ら割り込んでいくとか正気の沙汰じゃないよ。だからこその「羽川翼」というキャラクターなのかもしれないが、同時にちょっと観ててウザかったかな。
映像としてはこれまでと同じクオリティ。カット割りはさすがのシャフト、BGMも良かった。作画に関してはそういう方向性を目指してはいないのだと思うが綺麗というより動かしやすさや、過去編や恐怖演出と言う部分もあっておどろおどろしさみたいなものの方が強くて「綺麗」というイメージはない。
評価は、★★★(3点 / 5点)。
おまけ
公開第一週の特典、になるのかな? もらってきました。

まだ読んでませんがw
NoTitle
まあ、ダメ押しは猫物語(黒)ですけどね。
むしろ、この時点なら羽川がとっとと告ってればアララギくんは受け入れた可能性が高いです。
>個人的に最も歪さを感じたのは翼かな。
>怪異へ首を突っ込むこともそうだけど、暦vsキスショットの場面に自ら割り込んでいくとか正気の沙汰じゃないよ。
「猫」も「虎」も受け入れてない羽川はこうも危うい少女だったって事ですね。
前回のエピソード戦でも首を突っ込んで死にかけたのに、この有様です。
まあ、この羽川の危ういまでの聖人ぶりが自.殺を考えてたアララギを立ち直らせるきっかけになり、
キスショットが忍に生まれ変わる要因になったわけですが。
>だからこそその「羽川翼」というキャラクターなのかもしれないが、同時にちょっと観ててウザかったかな。
忍野メメとキスショットは羽川をウザいと思ってたでしょうね。
いや、メメは「危うい」と心配してたかもしれませんが。