シャーベット・ゲーム 四つの題名

作:階 知彦 発行元(出版):三交社(SKYHIGH文庫)
≪あらすじ≫
朝霧学園高校に通う穂泉沙緒子と和藤園子は、クラスメイトの塀内准奈から県内名門校の神原高校で殺人未遂事件があったことを聞く。被害者はミステリー文芸部の部員で、そのポケットには謎の暗号が書かれた紙が入っていた。そしてミステリー文芸部が出している作品集の目次にも違和感のある題名が書かれており――。事件に興味を持ったふたりは、神原高校に向かう。<四つの題名>他、大学のテニスサークルで起きた不可解な服毒自殺事件<まだらの瓶>を収録。沙緒子と園子が再び事件に挑む!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
秋に創刊されたスカイハイ(SKYHIGH)レーベル。その時に刊行された『シャーベットゲーム』がまさかこの短いスパンで続編を出してくるとは思わなかった。というよりも、続編が出ること自体が驚きか。もちろん、続編が出せないような終わり方ではなかったが、どちらかといえばラノベ風の表紙だったり、ややミステリーとしては超推理的な展開が多かったりとあまり万人受けするようなタイプではないと思っていたから。
さて、本作は中篇二つという構成。どちらの作品にも言えることは、ホームズ役の穂泉沙緒子の超推理がある、ということ。もちろん、そこにはいろいろと理由や根拠があるし、振り返って読み返した時に「あぁ、ここのコレね」という風に要素もちゃんとあるためミステリーとしての要素は満たしているし、案外分かりやすい形でそういうのが出ていることもあるので私なんかでも「あ、この言動が推理のきっかけかな」と思うことも出来る。
それはひとえにこの作品が、作風として読んでいて逆算さを強く感じるためだ。まぁ、だいたいのストーリー(特にミステリーなんかは)結末から逆算して物語を書いていくものだろう。ミステリーなら肝となるトリック、謎を構築してそれが解かれた状況を想定しそこに繋がるように物語を組み上げる。この作品は、良くも悪くも読んでいて強くそれを感じる。たぶん沙緒子の推理が飛び抜けているせいで「この娘(こ)には最初から答えが分かっている=神の目線そのもの=小説による神「筆者」そのもの」という風に自分の中で連想されるのだろう。
本当に文章が上手い小説家さんならそれを読み手に感じさせないのかもしれないし、この作品はそれが出来ていないのか、意図的にしていないのかは分からないけれど、そこはハッキリ言って好みが分かれるところかなと思う。
ただこの作品は、事件編と解決編に分かれており、そのちょうど中間で読者に「謎は解けましたか?(意訳)」という問いかけがあり読者に謎を解くことを要求していることも良くも悪くも影響しているのかもしれないが。
以下、個別感想。
【四つの題名】
表題にもなっている作品。沙緒子が編入してきて数日後、彼女たちの前にクラスメイトの准奈から、親交のある友人がいる他校で起きた謎を解いてほしいという依頼を受ける。昏倒させられたミステリー文芸部員、ポケットの中にあった暗号らしきメモ。興味を持った沙緒子と園子は謎を解くため、その学校へと向かうが――というエピソード。
感心したのは暗号の作り方、か。いや、本当に良くそんな暗号を、と思った。ホームズをリスペクトしている作品らしいので、ホームズの出てくるストーリーの中にそういったトリックやネタがあったのかもしれないが、それにしては実に日本語的な謎というか暗号だったな、と。
逆に言えば物語の部分は悪い意味で無難だった。特に終盤で良い話風に纏めてしまった点や犯人の動機のありきたりさみたいなものはマイナスだったかな、と。
評価が難しいのはエピローグか。時々あるのはミステリーに作家が関わって、事件を小説化するという展開。それが今作にも出てくるわけだが、たいていそういう時には当人たちは個人が特定されないことを望むのだが沙緒子は逆に実名を条件にしている。そうすることで自分の名前を「売って」、謎が自分に集まるように仕向けたいらしい。これは良い結末なのか悪い結末なのかが判断の難しいところか。
【まだら瓶】
「土曜日の夜は薬品庫の施錠が甘くなって簡単に盗める」という噂が突然流れた、とある大学のテニスサークルで起きた服毒自殺事件。一人の青年は自殺するはずなんてないと強いショックを受け、その妹は同じ学校に通う沙緒子の活躍を知り彼女たちに事件解決への協力を求めてきた――というエピソード。
とうとう殺人事件を扱うか、というところ。まずはそこが驚き。前回からしてややハードな事件を相手にはしていたし、この第二巻でも最初は傷害事件ではあったけれどなあなあになっていた部分が多かったわけだけれど「女子高生メインなんだから所詮日常系でしょ」という悪い意味での先入観をぶち壊すような殺人事件捜査。勿論最初は自殺で処理されている「事件」ではあるのだけど、人が死んでいる謎を扱うというのはこれからこの作品の方向性が「日常系ミステリ」から「本格ミステリ」に流れて行くのかも、と思わせる。
一応、読者が推理するための情報は本文中に散りばめられている。それも決して難度の高いものではないため、ミステリを多く読んでいる人や勘の鋭い人ならあっさりとその違和感や痕跡を見つけるだろうが、まぁ下手に難度が高すぎて屁理屈に等しいミステリをやられるよりはずっとマシだと思うし、私はこの作品の登場キャラが女子高生である点などを含めてもこの分かりやすい形があっていると思う。
ただトリックに関してはもう一考欲しかった。ブラジルナッツ効果を利用したトリックは面白い着眼点ではあるものの、同じ瓶の中に大きさの違う錠剤が入っていれば比較対象があるわけだからたぶんそれには気付いてしまうのではないか、と思ってしまうのだ。そこをクリアするもうひと捻りがあるとなお良かった。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。探偵役の沙緒子が優秀すぎるため、そこはまず好悪があるかもしれないが、昨今のストーリー性重視の作品ではなく、本来のミステリにあるべき「読者に謎を解かせようとする形」がメインに出ているミステリと言う部分ではもっと評価されていいかもしれない。
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