臨床犯罪学者・火村英生の推理 暗号の研究

作:有栖川 有栖 発行元(出版):KADOKAWA(ビーンズ文庫)
≪あらすじ≫
明晰な頭脳と洞察力を持つ天才犯罪学者・火村英生にかかってきた、一本の電話。それは、かつて火村が解き明かした暗号の制作者・山沖からの挑戦状。「あんたの時計、遅れてるぜ」意味深な言葉に隠された戦慄の計画とは…(「ジャバウォッキー」)。ほか、暗号を元に美しい英国庭園を駆け巡る「英国庭園の謎」など、火村と、盟友の推理作家アリスの無敵コンビが大活躍!著者・有栖川有栖が厳選した暗号ミステリ集登場!!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
長年のシリーズだけあって書店で入手できるシリーズは数が限られてきた。古書店とかにいけばもう少しあるのかもしれないが、とりあえずビーンズ文庫にも手を伸ばしてみた。まぁ、そうはいっても有栖川先生の自選短編集なので内容自体はどこで出していようが火村シリーズなのだが。
本全体ではタイトルの通り「暗号」をテーマの一冊となっている。暗号(ダイイングメッセージ含む)という、ミステリーとしてはド定番の王道である分だけ、いろいろな形があってそれを火村シリーズなりに纏めている印象。
ただ思うことは、ビーンズ文庫ということなのか表紙がイラスト、さらにラノベのようにイラストの数ページ挿入されているのだけど、火村英生のイラストはこれで正しいのか? と出てくるたびに疑問しかなかった。劇中では「白髪交じりのぼさぼさの髪、白いジャケットなど白系の服装のコーディネートを好み、ネクタイは緩くだらしなく」って感じの描写が多いはずだけど、イラストの火村はやや短髪気味のイケメンにしかなってねぇw
一応、有栖川先生もチェックはしているのだろうし、このイラストでGOサインを出してはいるのだろうけど……実写ドラマ版の斎藤工さんの印象が強いのか違和感は拭えない。
以下、個別感想。
【ジャバウォッキー】
相手が誇張ないし比喩表現する言葉をどう読み解くか、という暗号としてはベーシックなエピソード。加えて、時刻、列車(時刻表)などの謎も組み込まれている上に、時間制限とも戦うサスペンス的な要素も入っているので(火村シリーズとしてはやや異色ではあるものの)面白い。
【英国庭園の謎】
一種の言葉遊び的な暗号のエピソード。自力で解けないこともないが、確かにこれは劇中で言われているようにノーヒントで解くのはなかなか骨が折れそうだ。
【暗号を撒く男】
過去の事件を振り返るという形のエピソード。事件を解くための暗号というよりは、不可解な被害者が遺した置物の暗号という形か。
実写ドラマ版でも同じ暗号が使われていたので、なんか懐かしかった。
【あるYの悲劇】
見方を変えることで別の意味を見い出す暗号という形のエピソード。正直、収録されている五篇の中では一番面白いというか、納得出来た暗号だった。さすがに「山崎」を別の名で呼ぶとかそう言うのは予想外ではあったけれど「Y」という字は書き順が違うとそういう可能性もあるな、と。
【比類のない神々しいような瞬間】
専門的な知識を特に要する暗号を使ったエピソード。さすがの火村英生もお香に関してはそこまでの博学ではなかったようで、劇中時間では半年近くの時間がかかったという形。でもまぁ、そりゃそうだよ、とも。
確かに特定の人物に対してのみに分かる暗号として犯人を名指しで遺し、復習してくれと暗に示すのはリアリティがある。あるのだけど、ミステリーとしてはちょっと複雑。一応、劇中で被害者がお香に凝っていたという描写もあるにはあったけどさ……。
総評は、★★★★(4点 / 5点)。短編集なのでどうしても当たり外れはあるが、個人的には【ジャバウォッキー】【あるYの悲劇】の暗号は好き。
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