ピポクラテスの誓い

作:中山 千里 発行元(出版):祥伝社
≪あらすじ≫
浦和医大・法医学教室に「試用期間」として入った研修医の栂野真琴。彼女を出迎えたのは偏屈者の法医学の権威、光崎藤次郎教授と死体好きの外国人准教授・キャシーだった。凍死や事故死など、一見、事件性のない遺体を強引に解剖する光崎。「既往症のある遺体が出たら教えろ」と実は刑事に指示していたがその真意とは?死者の声なき声を聞く、迫真の法医学ミステリー!
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
中山千里さんの作品の一つ。シリーズ化されて九月に単行本として続編が出るようだ。
作品は、あらすじの通り法医学を舞台としたミステリー。まぁ、現在におければドラマなども踏まえると法医学・医者系のミステリーというのも全く珍しくなくなったのだが。
全体的にはリーダビリティはそんなに高くない。どうしても必要な要素として、専門家が中心のキャラクターのストーリーのため彼らの口からは法医学の専門用語が出てくることが多々ある。本来なら辞書片手にそれらの意味を理解した上で読むことが望ましいのだろうが、さすがにそれは出来なかった。
さらにミステリーとしても、そういった法医学知識が前提のミステリーなのでそういったものがないと「あれ、おかしい」と気付くことがほとんど出来ない。
そういう意味でミステリーとしては読み手をかなり選んでしまうかもしれない。
一方で一冊の本としての構成力は高いと思う。高いというか、一冊の本全体を利用してのカタルシスというか、ちゃぶ台返し的などんでん返しがなかなかに「ううむ」と良い意味で唸らされる。
まぁ、曖昧に書いても仕方ないので多少のネタバレ承知で明記してしまうと、全部で五篇ある短編が短期間に起きた出来事であることを最大限に利用している、ということだ。もっと簡単に言えば「この短期間に五つものおかしな既往症のある遺体が出ることはどう考えてもおかしい=そこに意味がある」ということ。
どうしてもこの手の小説を読んでいると、「事件が起きないとそもそもストーリーが始まらない」と思ってしまうので連続して遺体を解剖するエピソードが出てきてもすんなり受け入れてしまうのだが、作中時間を考えればそれをすんなり受け入れ過ぎてもいけないってことなのだろう。
キャラクターも個性という意味でバランスが取れていて良い。栂野真琴の成長というか、法医学ないし医学を終身究めていくものとしての心構えみたいなものがあって良かった。
評価は、★★★☆(3.5点 / 5点)。専門用語多さへの理解し辛さなどもあるが、一冊の本としての意外な盲点を突くところやキャラクター同士のやり取りは楽しめる要素。
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