今からあなたを脅迫します

作:藤石 波矢 発行元(出版):講談社(タイガ文庫レーベル)
≪あらすじ≫
「今から君を脅迫する」。きっかけは一本の動画。「脅迫屋」と名乗るふざけた覆面男は、元カレを人質に取った、命が惜しければ身代金を払えという。ちょっと待って、私、恋人なんていたことないんですけど…!?誘拐事件から繋がる振り込め詐欺騒動に巻き込まれた私は、気づけばテロ事件の渦中へと追い込まれ―。人違いからはじまる、陽気で愉快な脅迫だらけの日々の幕が開く。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
久々にタイガレーベルから一冊。
結論から言えば、久々に見事なまでのハズレを引いた。もちろんこれは私の個人的な感想であり評価であるので、この一冊を読んで「傑作だ」という方もいるかもしれないが……。
そもそもにして悪い意味で先入観に支配されてしまった感は否めなかった。本を手に取って裏表紙のあらすじを読んでまず目についたのは「脅迫屋」という文字。しかしながら、脅迫屋としての活動、信念、あるいは細かい所作や機微といったものの描き方が浅く、正直「脅迫屋」の必要性はあったのか、という疑問が浮かんだ。
さらに「元カレを人質にとった~ちょっと待って、私恋人なんていたことない」という流れから面白そうな予感を感じたが、その部分は短編の最初の最初であっさり片付いてしまっていて、その後に続いていかないという形でつまずいてしまった。こればかりは裏表紙を読んで私が早とちり・早合点をしてしまったことが悪いのだけどね……。いや、そうはいってもさ。この書き方じゃ一冊丸々使うと勘違いするよ。
さて、本編だがまずなんといっても語り部でありヒロインの澪に全くと言っていいほど肩入れ出来ない。というか、意味不明、解読不能。勘違いの脅迫も「その人が助かるなら」と本気で三千万出そうとするし、「優しく正しく生きる」という亡き両親の願いを好き勝手に解釈し手やりたい放題。全五篇の短編集だが、その章によって言ってることが違っているようなところも見受けられて、本当にただ自分が気に食わないことは許せない、という作中において最終章の黒幕と並ぶかそれよりもひどい最も最低な人間。自覚がない分だけ余計にタチが悪い。
だいたい「優しい」とか「正しい」とか、言葉では分かりやすくともその実態は「何が優しいのか」「正しいとは何か」と突き詰めれば難しいものをわざわざ作者が引っ張り出した割に書いてあることがあまりに薄っぺらい。正しく生きると言った割に最後の澪の落とし前は腑に落ちない。エンターテイメントと観たとしても面白味がまるでない。
本当に久々に後悔した。まぁ、読むか読まないか。「どっちを選んでも後悔する」と作者が作中のキャラクターに言わせた台詞だけ確かにその通りだなと思った。
評価は、☆(0.5点 / 5点)。語り部は読者が最も接するキャラクターである。そのキャラクターくらいは読者が肩入れや思い入れが出来るキャラクターにしないとそもそも小説そのものが成り立たない。これはそんな悪例の一冊になったと思う。裏を返せば、せめて語り部が澪じゃなければ同じ内容でももう少しまともだったかもしれない。
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