増山超能力師事務所

作:誉田 哲也 発行元(出版):文藝春秋
≪あらすじ≫
日暮里駅から徒歩10分。ちょっとレトロな雑居ビルの2階にある増山超能力師事務所―。所長の増山率いる、見た目も能力も凸凹な所員たちは、浮気調査や人探しなど、依頼人の悩み解決に今日も奔走。超能力が使えても、そこは人の子。異端の苦悩や葛藤を時にユーモラスに時にビターに描く人気シリーズ第1弾。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
超能力師という存在が少しずつ一般化し始めた日本。そこで活動する超能力師事務所でのやり取りを描いた短編集。あらすじではシリーズ作と謳っているが、シリーズ化するつもりなんだろうか。
発想はどことなくラノベ的な発想だと思う。現代日本にファンタジー的な要素を落とし込み、それをベースにちょっと違う現代日本をファンタジーないしSFとして描くという部分は、オンラインゲーム系の作品に近い感じも受ける(もっとも、あちらは現代日本の世界観を変えるのではなく違う世界へ飛び込むという、ある種の異世界召喚に近い感覚だろうが)。
しかし、実際に表紙を開いてページを読み進めて行くと、そこに広がるのは欲望と、苦悩と、諦めと、そしてわずかながらもしっかりとある希望というあらすじ通りのビターなテイストの文章であり中身だ。
そういう部分で評価すると、独自の世界観の構築(個々の設定含め)と良くも悪くも人間臭い部分とが両立しているし、させている作者の文章力というか表現力と構成力の高さを感じられる部分だ。
ただ、超能力を題材にしている割にはその出番はそこまで多くない。それはあらすじの通りだ。超能力が使えても、人間はどこまでいっても人間でしかない。超能力というものが、「足が速い」「頭が良い」「会話が上手い」などと同じある種のツールであるという部分にはなっているが、エンターテイメントとしてはやや物足りない。使用頻度がとにかく高いのが、いわゆるテレパシー(読心)・サイコメトリー(接触感応)系と、「超能力」を謳う割にバリエーションに欠けていることも原因かもしれない。
それに通じる部分ではないが、もう少しいろいろな超能力を観てみたかったし、「全部出来て当たり前」な発想がちょっとどうなのか、と個人的に思ってしまった。超能力を使う人だって念力が得意な人、感応が苦手な人など千差万別のはずで(実際、作中ではその通りだった)、しかし全部出来ないと評価されないという在り方が超能力のバリエーションを欠かせた原因にも思えた。
評価は、★★★☆(3.5点 / 5点)。タイトルとは裏腹に、しかしあらすじの通り良くも悪くも人間臭さがメインの作品。そこが好きか否かで評価は大きく分かれる部分だろう。超能力要素は正直、アクセント程度。
Comment
Comment_form