水鏡推理3 パレイドリア・フェイス

作:松岡 圭祐 発行元(出版):講談社
≪あらすじ≫
大地震の後、山中に出現した巨大な土の塊。人の顔そっくりの隆起は「人面塚」と名付けられ、マスコミが貧村に殺到する。その隣村では地球のN極S極が逆転する現象の新たな証拠が見つかる。立て続けに発見された地球の成り立ちの常識を変える二大現象に、文科省タスクフォースのヒラ事務官・水鏡瑞希が挑む。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
シリーズとしては別だが、その前に著者が書かれた『探偵の鑑定』の出来があまりに酷い――というと語弊を招きそうだが、主観で言わせてもらえば酷い内容だっただけに、もうこの人の作品は二度と読まないだろうなと思った。言い訳をするようだが、実際にそれは継続していてこの本も自分で購入したものではなく、知人に薦められたもの。まぁ、薦められた手前断わりづらくて読んだ。
さて、上記のような前提があった上で読んだので言うまでもなくネガティブな先入観があるわけだが、それを差し引いても面白いと思う。「この人の本はもう二度と読むものか」と言っていた人間が「面白い」というのだから、伊達に売れているわけではないし、エンターテイメントの一冊としてもしっかりとした完成度。
シリーズ作品を読んできた人からするとやや予定調和的な展開ではあるが、裏を返してポジティブに考えるならばそれは一種の「様式美」と評価することも出来る。
特にこの作品を様式美足らしめている要素の一つが、主要キャラである水鏡瑞希以外のキャラクターが毎回入れ替わる点にある。これはなかなか観ない手法だ。シリーズ作品であれば、当然知っているキャラクターが増えて行くことは喜びだし、そのキャラクターがどういった人生を歩んでいくのかを知りたいというのは当然の欲求だが、この作品ではそれを描かない。
ある意味で、この作品は莉子と悠斗という二人の関係を描いてきた『Qシリーズ』とは対照的に恋愛を一切描かないという真逆のスタンスを取っているし、それがハマっている。毎回のように瑞希のお相手役が変わって行く。
そして、今作で最大のアピールポイントといえばその相手役・廣瀬がかなり良いキャラクターになっていることだろう。冷静沈着な官僚だが、程よく人情味を隠し持っているという、クール系主人公みたいなキャラ。瑞希と廣瀬が二人そろって「霞が関下剋上」というキャッチフレーズが最も当てはまる作品になっていると思う。
まぁ、苦言を呈したい部分がないわけではないのだが、重箱の隅を楊枝でつつくようなことなので敢えて書くほどでもない。
ただそれでも一つだけ書いておくなら、正直『Qシリーズ』や『探偵シリーズ』のような知識をひけらかす必要性は巻を増すごとに減っている気がするので、いっそそういう要素は省いた方が良いとも思った。瑞希が地質学の本を昔読んでいたという設定含めて、どうしても「都合が良すぎる」とも思えてしまう。
それでも前回の幼稚で稚拙な瑞希を振り返ってみれば、今回はある程度「公務員」「事務官」という立ち位置や入庁してから相応に時間が経過している良い意味での蓄積が感じられる落ち着いた立ち振る舞いになっていたのでそこは良かったのだが。
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。瑞希がこれまでよりは稚拙な言動を控えたこともあるが、それ以上に相手役の廣瀬のおかげで瑞希とのキャラクターのバランスが取れていたことが高評価の大きな要因。
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