ジョーカー・ゲーム

作:柳 広司 発行元(出版):KADOKAWA
≪あらすじ≫
結城中佐の発案で陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校“D機関"。「死ぬな、殺すな、とらわれるな」。この戒律を若き精鋭達に叩き込み、軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関"の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く結城は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を上げてゆく......。
吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞に輝く究極のスパイ・ミステリ。(解説・佐藤優)
(アニメビジュアル帯・裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
アニメ版も終わって、「文庫なら読んで観るか」と思って手に取ってみた。なかなかアニメ見てから原作作品を手に取るというのは、特にミステリだと「結末を知ってしまっている」わけだからあまり気が進まないのだけど、今回は迷いなく手に取れた。それだけアニメ版は偉大だったということだ。
シリーズ的にはどういう呼称が正しいのかは分からないが、とりあえずD機関シリーズとでもさせていただくと、その最初となるのがアニメ版や実写版でもタイトル名となっている本作『ジョーカー・ゲーム』である。
ストーリーに関しては割愛させていただこう。基本的な内容はアニメ版と変わらないのでそこに言及する意味があまりない。
ただ原作の部分においてはやはり情報量が多いな、と感じた。特にD機関出身のスパイたちの優秀さ。作中でも何度か「化け物」と言及されたこともあるが、アニメ版ではスタイリッシュに描かれ過ぎてしまっていて彼らはあまりに当然に超越的なことを成し遂げてしまう。映像化されたことで、そこを表現するために苦心したであろう文章描写がなくなってしまっているので、どうしても目で見ただけのアニメとはやはり重みが違う。
第一話『ジョーカー・ゲーム』で佐久間が語る部分などにもあるが、改めて文章として読んで観るとD機関メンバーの異常性が良く分かるし、第三者的な立場にいる人、あるいは敵対する人が彼らを観て「化け物」と感じることの必然性が良く出て居た。そして、そんな化け物たちを統率し、そんな化け物からも畏れられる結城中佐が「魔王」たるゆえんも。
一点だけ書いておくと、最終話の『XX-ダブル・クロス-』はアニメ版と原作では結構違うだな、というのが実は予想外だった。割と原作に忠実にアニメを作ったのだと思っていたからなんだけどね。あと、三好が「これは貴様の事件だろうが」といった意味がようやく理解出来た。このエピソード、「D機関での飛崎(小田切)の卒業試験」だったらしい。
どちらが良かったかといえば……まぁ、先にアニメ版を観てしまったこともあるのだろうけど、個人的にはアニメ版の方が良かったと思った。もちろん文章としての情報密度や細かさは原作の方が面白いんだけど、真犯人を変えた点、そして最後の結城中佐が原作では(なんとあの結城中佐が敬礼をして)「死ぬなよ」と飛崎を送り出すのに対して、アニメ版ではそれに応えた飛崎が敬礼したのを見て「馬鹿か貴様……背広姿で敬礼するやつがあるか」と笑みを浮かべた。どちらか結城中佐らしいかといえば、後者かなと思ったし、終わり方に救いがあるのも後者かな、と。
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。アニメを先に観ていてその補正(贔屓)もあるのだろうが、やっぱり面白い作品。短編集なのでサクサク読めるが、重厚感がやや足りないとも取れるか。その点では文章ではなく映像や音楽を動員し五感に訴えかけるアニメの方が同じストーリーでも重みを出せたわけだ。
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