探偵が腕貫を外すとき 腕貫探偵、巡回中

作:西澤 保彦 発行元(出版): 実業之日本社
≪あらすじ≫
毎年、同日同刻に鳩の死骸と人の死に直面する配送員の運命は?被害者の夫は、なぜ殺人の罪を被ったのか?契約中の駐車場が、なぜ不特定多数のドライバーに無断駐車される?公務員探偵“腕貫さん”が、市民が持ち込む事件の謎を鮮やかに解く。そしてグルメ仲間である女子大生・ユリエのピンチには…。単行本未収録1編を加えた文庫特別版。
(裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
腕貫さんシリーズ。最新刊が単行本で出たからなのか、文庫化された。
安楽椅子探偵の腕貫さんシリーズだが、今回はいつも以上に超推理というか割と想像力豊かとでもいうべきか、空想をフルに活かしたような推理が多かった気がする。
それを「超推理」と称するか、「根拠がない机上の空論」としてしまうかは個人差が出そう。
以前は一冊の本の中でのキャラクターの関係などを上手く絡めていたけど、今回はもはやレギュラーな準レギュラーのユリエメインという感じで、あまりそう言う感じもなかったかも? 良く言えば安定していると言えるのか。
以下、個別感想。
「贖いの顔」
ここ三年、四月四日午後四時四階マンションで鳩が窓ガラスと衝突して死亡し、さらにその部屋の住人が死んでしまう事態に直面している青年の前に現れたのは女子大生のユリエと江梨子。悩む彼らにユリエたちが紹介したのは、たまたま遭遇した休憩時間中の腕貫さんで、という話。
まぁ導入としてはオーソドックスなところだろう。腕貫さんの推理力というか想像力みたいなものががっちりと活きている。青年の弟・知哉の存在は江梨子と絡んでくるのかな、というのが伏線になるか否かってところか。
「秘密」
知人の葬儀に顔を出した佐浦という男。実はその知人というのは、自分の殺人罪を庇って代わりに犯人として刑務所に入った男だった。なぜその男は自分を庇ってくれたのか、そう悩む男の前には例の如く腕貫さんがいて、という話。
ミステリーとしては分かりやすい部類、かな。読んでいてだいたい想像が出来たというか、不倫していた女性に姉がいたというところと男が再婚したらしい女性の面影なんかからだいたいこんな感じかな、という概要は誰でも想像出来る内容で特筆すべきような点は少ない。
「セカンド・プラン」
路上の車内で刺殺体が発見された。刑事の氷見、水谷川は被害者の周囲を洗っていく中で、かつてその被害者が殺人事件の容疑者となったことがあることを知って、という話。
文庫書き下ろしだが、腕貫さんは一切出てこないという異色のエピソード。まぁ、出てこないからこそ文庫版での追加要素くらいでしか使えないエピソードなのかもしれないが。
ミステリー的には「秘密」と同じな系統・部類の謎って感じかな。
「どこまでも停められて」
妻と離婚し子供とも会えず、両親も他界した結果、自棄っぱちでとった行動が悉く裏目ならぬ表目に出てしまい億単位のマンションの最上階角部屋に居を構えることになった速水本一郎。しかし、そんな彼には不愉快な出来事が続いていた。それは毎週月曜日の早朝だけ自分が契約しているマンションの駐車場に全く違う車が十二週連続で停車しており、その正体や理由が一切掴めないことで、という話。
割と謎らしい謎というか、人が死んでいないので珍しく日常系の謎というところ。おまけに「十二週連続で毎週月曜日の朝に、全く違う車種の車が停まっている」というその理由さえ想像つかないような謎という点がまたミステリー本の読者としては興味というか好奇心がそそられるスタートだ。
そのネタ晴らしというか理由というものが納得出来るか否かというのは個々人に寄るだろうが、私はなかなか良かったと思う。またこのシリーズでは珍しくハッピーエンドっぽいし。
「いきちがい」
腕貫さんを「だーりん」と呼ぶ女子大生・住吉ユリエは、ひょんなことから母校ならぬ母園となr幼稚園の同期同窓会の幹事をすることになった。当日やってきたのはユリエを含めてわずか五人。遅刻してきているのは渡米してから十年以上一度も日本に戻ってきていなかった恩師だけ。少人数ながら和やかに進んでいたはずの同窓会だが、そこに出席していた一人が変死体で発見されて、という話。
ダイイングメッセージをどう読み解くか、というある意味でオーソドックスなミステリー。そこに「いきちがい」というタイトルが上手く絡んでいるという意味では、タイトルをしっかりと消化しているエピソード。
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。今回もバリエーションがある腕貫さんシリーズ。ただミステリー的には似たような落としどころが多かった気もするので、そこはいろいろなトリックや落とし方があった方が好み。欲を言えば「探偵が腕貫を外すとき」というタイトルなので、そういったものが大々的に出るエピソードがあると嬉しかった。
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