化学探偵Mr.キュリー4

著:喜多 喜久 発行元(出版): 中央公論新社
≪あらすじ≫
大学で暗躍する『互助組合』の謎。反応を掻き混ぜる以外に使い道のない“スターラー盗難事件”。切断された銅像と雪の上の足跡。そして今回、Mr.キュリーこと沖野春彦がなんと被害者に!?この事件の謎に立ち向かうのは、イケメン俳優にして「春ちゃんラブ」の美間坂剣也。沖野リスペクトによる化学的知識を駆使して新たな名探偵となれるのか!?
(BOOK データベースより抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
Mr.キュリーの最新刊。
前巻で正直ネタ切れな感が否めなかったところを自覚していたのか、指摘されてたのかは分からないが、全体的に変化をつけた一冊になっていたと思う。その点の工夫があって良かった。化学的なことは正直ド素人なのでこれらのトリックが現実的なのかとか可能なのかとかそういうことは分からないが、最後の奴は分かりやすかった。
あと不思議だったのは、多くのエピソードで過去の話で出て来たキャラクターが登場し、それぞれのキャラクターのその後をさりげなく描いていたことだ。加えて、最後の春彦と舞の会話がどことなく最終回っぽいことか。ちょうど作中時間でも一年が経過したようだし、シリーズとしては結構ヒットしているようだが作者の中ではシリーズを一区切りとするための一冊なのかもしれない。
もしそうだったとしても、これは一つの区切りとして十分な終わり方だと思うし、シリーズ作品であってもしっかりと区切りをつけようとする姿勢は高く評価したい。もちろん、「もしそうだったなら」だが。
以下、個別感想。
『化学探偵と猫騒動』
春彦が珍しくやる気になる案件。彼が猫好きだけど猫からは嫌われているというお決まりな設定(そして普段舞に巻き込まれてやむなく推理をする彼が自ら率先している点)や、しがないサブキャラしかなかった猫柳の熱意など、全体的にシリーズ作の中でも極めて異色なエピソード。ただ推理などの本筋が猫からはやや離れているのがちょっと残念。
『化学探偵と互助組合の暗躍』
架空の組織「互助組合」なるものが、通常著作料のかかる論文などを不正にコピーし共有されている事態に立ち向かう春彦と舞……ではなく、その互助組合に入っている一人の青年が、論文の入ったUSBメモリーを紛失するところから端を発する脅迫者を追うエピソード。
春彦らが深く関わらず外部にいるという点でこの作品としては前述の『猫騒動』とはまた少し違った意味で異色な一本。最後、恋愛に持ち込む必要があったのかは微妙だが。
『「化学探偵」の殺人研究』
舞の友人であるイケメン俳優・剣也とかつて春彦の推理に救われた女優・英梨子が主演の二時間ミステリードラマを手掛けるプロデューサーが、剣也の紹介で多くの謎を解いてきた春彦にトリックのアイディアを拝借したのだが、その直後にそのプロデューサー、さらに春彦までが襲われて…というエピソード。
まぁ、芝居がかった剣也と英梨子の台詞を読んでいればオチはたいてい読めるとは思うが、悪くはなかった。これも一つの「変化球」だろう。
『沖野春彦と偽装の真意』
後述の五話と同時系列で語られるエピソード。春彦が東京出張中のエピソードであり、舞が絡んでいない点で「変化球」かな。舞台と装置が理系というだけで、ミステリーとしては化学の専門的な用語や知識が必要というわけではないので、そういう意味ではこのシリーズ作品の中では比較的オーソドックスなミステリーかもしれない。
この作品がまだ終わらない可能性としてはここで春彦が先輩であり盟友の氷上に「氷上たちのいる大学に戻れない本当の理由」の存在をにおわせたことか。一応語りつくされていないという点では、シリーズとして続く可能性を示唆している。
『七瀬舞衣と三月の幽霊』
前述の四話と同時系列で語られるエピソード。こちらは逆に舞衣オンリーのエピソード。懐かしくSOSが出たりしている。トリックとしては珍しいものではない、かな。雪の中で足跡を意図的に作る方法は、確か金田一だったかどこかで目にしたようなありふれたトリックだったし。
四話とは逆に終わりそうな予感があるのが、このエピソードの最後の春彦と舞衣のやり取りか。まぁ、どちらとも取れると言われればその通りだが。
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。ややシリーズを通して異色なエピソードが多いので、シリーズを追いかけて読んできた人には新鮮さがあると思う。オールスター気味の登場キャラの要素も、ファンであればあるほど高く評価するだろう。
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