研究公正局・二神冴希の査問 幻の論文と消えた研究者

著:喜多 喜久 発行元(出版): 宝島社
≪あらすじ≫
文部科学省・研究公正局の調査員・二神冴希。サイエンスを愛するが故に、彼女の追及は苛烈にして過たず真実を穿つ―。クビ寸前の研究員・円城寺は、研究所の内部調査を依頼される。二年前、捏造の疑惑で日本中を騒がせた万能細胞に関する論文。関係者の死と失踪で闇に消えたはずの論文を、何者かが再び投稿したという。円城寺の調査は難航するが、二神冴希の登場で、調査は大きく異なる展開を見せ始める…。
(BOOK データベースより抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
『Mr.キュリー』シリーズを始めとした化学系のミステリーを描く、製薬会社で研究員と言う二足の草鞋を実践している喜多喜久さんの新作の一つ。
今回の題材は言うまでもなく、STAP細胞とそれを取り巻く一連の騒動をアレンジしたもの。そういう意味では少しばかり時期はずれてしまったものの、松岡圭祐さんの『水鏡推理2』と近い時期に似たような作品が出て来たということになる。まぁ、同じSTAP細胞騒動をベースにしていることが明白な上二タイミングが近いということもあるので、手に取った人はどうしても比べてしまうだろう。
さて、肝心の内容だが、正直なところ隠されている部分や便利な仲間たちが二神側にいるため、正直なところ「ミステリー」という形ではない。どちらかといえば、「サスペンス」に近く、二神登場以後は淡々と時系列が進んでいく形を取っている。それだけ二神をはじめとしたある種のチームはブレがなく、だからこそ人間としてそのブレのなさが一種の恐怖な点なのかもしれない。
本作で重要なのは、広義で「科学者」という人種の在り方と個々人の事情とのせめぎ合いだと思う。実際にそうした実情があるのか、動機があるのかは分からないけれど、ひとえに「研究者」「科学者」といってもやはり個人である以上、千差万別なんだなと。あまり多くを語るのはネタバレになってしまうが、具体的には「熱意を持って自分の研究テーマにのみ邁進する研究者」と「生活のために技術を磨いて他人のサポートをする研究者」の違いは興味深いところだった。本来、研究者なら確かに自分の研究に没頭してこそ本懐という本義なのだと思う一方、一人の研究者が習得し蓄積する技術には当然時間が有限である以上は限界があるわけだから細胞の取り扱い方や培養の仕方などの分野においてそれに特化したスペシャリストがいる意味も決して小さくないとも思えるわけだ。
後はなんといっても、万能細胞ねつ造に対する喜多喜久流の解釈というかアレンジが効いていた。『水鏡推理2』での松岡圭祐流の解釈も悪くないが、こちらの方がエンターテイメントとしての解釈は上手い。どうして万能細胞はあるとしか言えなかったのか、どうして再現実験は成功しなかったのか。そうした大きな疑問への、「これならあり得るか」と思わせてくれる。
キャラクターはなんといっても二神が強烈すぎる。研究者として実験結果に誠実でさえあれば倫理観や一般常識すら放棄するような言動や、それが策略だったとしても彼女の横柄なやり方はハッキリ言えば読み手を選ぶというか、読んだ人でも賛否は大きく分かれそう。
個人的には賛否なら、若干否定気味かな、正直。ただあの終わり方は、たぶん主人公が二神の進む道を是とはしなかった結果だとも思うので、そういう意味では主人公との対比が効いていたし良かったのかもしれない。
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。良く出来た一冊だと思う。中盤から登場する二神のキャラクターに匙を投げなければ、楽しめる。
Comment
Comment_form