46番目の密室(新装版)

著:有栖川 有栖 発行元(出版): 講談社
≪あらすじ≫
日本のディクスン・カーと称され、45に及ぶ密室トリックを発表してきた推理小説の大家、真壁聖一。クリスマス、北軽井沢にある彼の別荘に招待された客たちは、作家の無残な姿を目の当たりにする。彼は自らの46番目のトリックで殺されたのか―。有栖川作品の中核を成す傑作「火村シリーズ」第一作を新装化。
(BOOK データベースより抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
火村英生シリーズ、ないし作家有栖シリーズの第一弾となる作品。
第一弾ではあるが、この時点で成熟すら感じるほどのキャラクターたちの完成度がまず凄い。火村英生というキャラクター、有栖川有栖というキャラクター。これらの形がすでにちゃんとあるし、彼らは年相応に年齢をちゃんと重ねた大人でもあった。実はここが一番好印象な部分だ。この手の作品だと二人主人公を立てた場合、たいてい衝突する。それが中高生くらいならば「まぁ、そんなこともある」程度だが、それが大人になればなるほど「良い年した大人が」と自分も年齢を重ねていることもあって白けて見えてしまう。
ただ、本作ではそんなことはない。二人の意見が食い違うこともある。最後の場面で、二人の推理の結果の犯人も実は違った。しかし、それでも二人は衝突することはない。互いに互いのことを尊敬し、大人として紳士であるから相手の意見を聞いて、それが正しいと思えば受け入れるし、違うと思えば反論をする。そして相手も反論されればそれにちゃんと耳を傾ける。
あとがきで有栖川先生は、同業者である綾辻行人さんについて互いに親交が深い作家の一人だと公言しているからこそ、仮に意見がぶつかり合ったとしても「綾辻さんは大人な紳士で、そして私は彼の才能に敬意を持っている」と述べている。それと同じことが実際の本の中でも起きていた。
だから私の中で、最終章での火村と有栖川とが互いの推理を披露しあうシーンがとても好きだ。火村は有栖川の間違いを指摘し、指摘された有栖川は火村のより論理的で現実的な推理に耳を傾けて受け入れて、火村も有栖川の推理を(あとになってからだが)ちゃんと聞いて大人としてフォローも入れている。
ドラマ版が今やっているけれど、やっぱ原作は違うな、と思ってしまった。それくらい、この二人の大人の紳士な部分のある関係性っていうのは、とても素敵だと思った。
さて、ストーリーとしては密室殺人。密室の謎を一つ一つ丁寧に、地に足をつけて捜査をして解き明かしていく展開は堅実ながら素晴らしい展開だ。推理も火村が論理的なおかげで筋立てもしっかりしている。トリック自体は物珍しいものでも斬新さがあるものでもないクラシックな感じだが、私は飛び抜けて評価できるものではないにせよ極端に悪い印象もなかった。どんなトリックもやはり魅せ方一つだと思う。
火村英生シリーズはこれまで短編しか読んでこなかったが、長編はより堅実なミステリーの感じがしてより好きになれそうだ。
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。
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