両澤千晶さんに死亡説? 改めて脚本家・両澤千晶の功罪を簡単に考えてみる
- ジャンル:[アニメ・コミック]
- テーマ:[機動戦士ガンダムシリーズ]
始まりは声優の金丸淳一さんのこのツイート。
金丸淳一 voice actor @junichisonic
ああ、大切な人が
またいってしまった
r.i.p
金丸淳一 voice actor @junichisonic
まだまだ僕は
両澤さんの脚本で
演じ続けていきたかったです…。
両澤千晶さま
どうぞ安らかに。
2016.2.23追記
GUNDAM.INFOにて公式に亡くなられたことが発表されました。
「脚本家・両澤千晶さんご逝去について
『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』シリーズ、
『機動戦士ガンダムSEED』シリーズ等を手掛けられた
脚本家・両澤千晶さんが2月19日、大動脈解離にてご逝去されました。
享年56歳。
心よりご冥福をお祈りいたします。
葬儀に関しましては当社よりお知らせすることはできません。
ご了承のほどよろしくお願い申し上げます」
(以上、GUNDAM.INFOより抜粋)
謹んでご冥福をお祈りいたします。
さて、両澤千晶さんの近年の代表作は間違いなく『機動戦士ガンダムSEED』シリーズでしょう。ただ、その脚本には今なお根強い賛否があるのも事実です。私もそこまで詳しいわけではないので詳細な考察は出来ませんが、改めて両澤千晶さんの残した功罪について少しばかり考えてみたいと思います。
◆商業的に成功したSEEDシリーズ
『機動戦士ガンダム』という、今やブランド作品。その中に置いても「平成の1stシリーズ」とも銘打たれた『SEED』シリーズの売り上げは群を抜いています。
詳細な情報は分からないものの、某サイトでは(その真偽は定かではないものの)歴代のTVアニメDVD・BD売り上げの累積平均のランキングに置いて『SEED Dstiny』が約9万枚で9位、『SEED』が11位となっています。ガンダムシリーズでこれを上回るのは『ガンダムUC』(同3位)、『1stガンダム』(同7位)だけ。『0083』『オリジン』『ガンダムW EW』がその後に続きます。
また『SEED』シリーズとされるC.E.を舞台とした世界は今なお外伝などで拡大し続けています。外伝などによる作品の拡大が図られている作品は、そう多くありません。後発の『00』『AEG』『Gレコ』では今のところ『SEED』シリーズほどの活発な外伝活動というものは見受けられず、後発の作品が多数造られている現状にあってなお、『SEED』シリーズの訴求力の高さを物語っています。
加えて、その前に放映されていた『X』『ターンエー』ではコアなファンには受けてもファンの裾野を広げるに至ったかは微妙だった中、「ガンダムはオワコン(終わったコンテンツ)」とも言われていながらも『SEED』で大きく持ち直させた。その後十年の、ガンダムコンテンツの基盤を作った作品の一つに『SEED』は間違いなく入るでしょう。
その要因はおそらく女性受け。もっと言ってしまえばBL因子の投入(もちろんそれだけではないでしょうが)。思えば深夜アニメを中心にキャラクターは、男<女の構図がほとんどだった中、ガンダムシリーズは男≧女が多いわけですから、BL好きやその趣向が少なからずある女性層への訴求が出来たというのは大きかったのではないでしょうか。
これだけのシリーズを作ったのは、監督と、そして間違いなく脚本家として両澤さんがあの脚本を世に送り出したからこそ。『SEED』でこれだけの盛り上がりがなければ、『00』や『AGE』、さらに今放映中の『オルフェンズ』などの後発作品はここまでスムーズに世に出てこなかったかもしれません。
これは評価しなければならないところです。脚本の中身や内容はともかく、「世に受け入れられ、売れる作品を作った」という部分において両澤さんの脚本には大きな意味と価値があったはずです。
◆賛否分かれるDestiny -売れることと中身の良さは別問題?-
一方で、特に続編である『Destiny』ではそのストーリー内容や展開において今なお賛否両論の現状が続いています。放映中の脚本の賛否はガンダムシリーズに限らずアニメやドラマと言った創作物では決して珍しい話ではありませんが、十年以上続いているというのは珍しいのかもしれません。
ここでは具体的な内容は避けたいと思います。ただいろいろな要素があったことは事実ですし、一説にはその脚本にスタッフやキャストといった身内ですら反感を抱いていたとも言われています。まぁ、言われてみれば確かにキャラクターの言動は「なんでそうなるのか」というものも少なくありませんでした。実際、『SEED』ではそこまで大きな反感が両澤さんの脚本にあったとは思えず、『Destiny』で(どこまでが彼女の思惑によるストーリー展開やキャラ言動だったのかは不明ですが)の展開は、彼女の脚本家としての評価を左右するものになってしまったことは間違いありません。
前述のように『SEED』シリーズは「売れた」作品です。しかしながら、それがファンの間で「評価される」作品になれるかどうかはまた別問題だという現実が、創作物の難しさを如実に表している気がします。
◆お蔵入り? 現在進行中? 劇場版の話
劇場版ガンダムSEEDは、長らく言われ続けてきたことです。しかもそれは噂のレベルではなく、アニメ誌でも発表されるレベル。にも関わらず劇場化は後発の『00』に完全に先を越されてしまっている現実。結局のところ、客観的に考えれば『劇場版』の企画はお蔵入りに等しいのでしょう。真偽は定かではありませんが、メカデザインの大河原さんなどは「劇場版のデザインは80%ほど出来ている」とも、「当初は劇場を押さえる段階まで来ていた」とも言われていました。にも拘らずこの結果。
そこには両澤さんの脚本の遅筆、そしてご病気があったのでしょう。ご病気でその療養があったから脚本が遅かったのか、遅筆と療養に因果関係はないのか。今となっては分かりませんが、この遅筆さが結果として『Destiny』での大量バンク(作画の使い回し)の現状を生んだとも言われています。
もしも脚本がスムーズに進んで劇場版が予定通りのスケジュールで公開されていたならば……、もしかしたら脚本家・両澤千晶としての評価はまた違ったものになっていたのかもしれません。
◆大切なことは信用
こうして振り返った時、どんな仕事でも大切なことは信用なんだと改めて感じました。
『SEED』の頃、両澤さんの脚本がどうだったかは分かりません。予定通りだったのか、早かったのか、遅かったのか。ただ表に出てこない以上、少なくとも極端に遅いということはなかったはずです(思えば、『SEED』ではMSモーションとしてカッコいいものを続ける要素はあっても、何でもかんでも使いまわすバンクらしいバンクはなかったように思います)。
対照的に『Destiny』の頃の悪評は幾らでも出てきてしまう。彼女の病気療養、治療といったものもあるのでしょう。しかし、それならば脚本を後任の肩に託して自分はアドバイザーという立場にはなれなかったのでしょうか。夫であり監督でもあった福田さんはそれを提案することは出来なかったんでしょうか。
結果としては出来なかったのです。それ故に、多くの信用を失ってしまった。福田さんは『Destiny』終了後、スペシャルエディションやリマスターを除けばもう十年以上、アニメ監督として作品に携わることはなくなってしまいました。『クロスアンジュ』ではクリエイティブプロデューサーという肩書だったようですが…。
そして両澤さんも『SEED』という名作を生み出しながら、『Destiny』以降脚本活動はほぼなし。
ネット上で「干されている」と言われてしまうのも、客観的には仕方ない現状です。
売れる作品も、評価される作品も、受け入れられる作品も、その時は良くてもその後に続けるためには人と人との信用というのは大きなことなのだと思います。
◆脚本家・両澤千晶の功罪
最後に簡単に纏めましょう。
脚本家・両澤千晶の功績。それは女性ファン層を大きく拡大させ、オワコン化しつつあったガンダムシリーズの息を吹き返させたこと。宇宙世紀シリーズが終わり、アナザーガンダムでは『W』以外では放映当初あまり高く評価されなかった中で、福田監督や彼女の存在は「中興の祖」に近いものがあったように思います。ガンダム好きとしては、彼女の最大の功績はそこでしょう。
そこだけは決して見誤ってはいけないと思っています。『Destiny』に否定的な人も『SEED』だと肯定的な人も少なくないはずです(『SEED』までは良かった、というのは良くガノタの間で耳にする常套句になりつつあります)。『Destiny』の脚本は両澤さんですが、『SEED』の脚本も両澤さんなのですから。
一方で脚本家・両澤千晶の罪過。それは「平成の1st=平成の新しい宇宙世紀シリーズ」の可能性を秘めたC.E.の世界観をわずかTVアニメ二作(+OVA+外伝)で終わらせてしまったこと。私はもっとコズミック・イラの世界は長く続いて欲しかったです。今でもそう思っています。それも外伝ではなくTVシリーズで。
それだけの要因はちゃんとあったように思えます。平成の宇宙世紀として何作ものTVシリーズやOVA・劇場、コミック外伝などが出来たはず。コミック外伝は今なお続いているのが、このコズミック・イラの世界の受け皿の広さとポテンシャルの高さを証明していると言えるのではないでしょうか。
にも拘らず、噂通りなら彼女の遅筆が劇場版を頓挫させてしまった。病気療養が必要ならそれは仕方のないことです。でも、それならそれで商業脚本家としてその筆を他人に託してでも作品を継続させ完成させるべきだったのではないでしょうか。どちらにせよ一人の脚本家が長々と続く世界観全ての筆を執ることは不可能でしょう。早かれ遅かれ筆ないし脚本という名のバトンを他者に託さなくてはいけなかったはずです。
しかし、バトンを他人に託せなかった。そして託せなかったからこそ、そこでバトンは途切れ、作品としても現時点でTVシリーズは途切れてしまっている。そこが最大の罪過のように感じます。
前述のように両澤さんの容体や現状は定かではありません。なので安易にご冥福だなんだという言葉は正式な発表があるまでは使いません。ただ、彼女の足跡というのは良い部分も悪い部分も決して浅いものではなかったのだと思います。
- at 22:30
- [特集:ガンダムSEED・SEED Destiny]
- TB(0) |
- CO(8)
- [Edit]
NoTitle
もうSEEDは14年くらい前になるんですね。
賛否両論あるガンダムでしたが私は好きです。
SEEDが無かったらその後の00、AGE~鉄血の流れも
ガンダムの製作がどうなっていたのか分かりませんし…。