掟上今日子の挑戦状

著:西尾維新 発行元(出版): 講談社
≪あらすじ≫
鯨井留可がアリバイ工作のために声をかけた白髪の美女は最悪にも、眠るたびに記憶を失ってしまう忘却探偵・掟上今日子だった…。完璧なアリバイ、衆人環視の密室、死者からの暗号。不可解な三つの殺人事件に、今日子さんが挑戦する!
(文庫本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
『掟上今日子さん』あるいは『忘却探偵』シリーズの第三段。今秋には実写ドラマ化がすでに決まっており、それに合わせるように(予定通りなら)十月、十二月それぞれに第四段『掟上今日子の遺言書』、第五段『掟上今日子の退職願』の新作発売も決まっているという、今のりに乗っている。まぁ、実写ドラマは一つの区切りになりそうだし、本作含めれば二か月のスパンで、約半年で三冊という超ハイペースの刊行となると、ある意味今年いっぱいのシリーズなのかもしれない。
さて、本作は三部構成となっているが、それぞれが独立した話となっている。登場人物も今日子さんを除けば全員初出という、ある意味で「寝たら忘れる」という忘却探偵らしいキャラ構成だ。
ストーリーとしては三作のうち二作が犯人視点での語りとなっている点もこれまでと少し毛色が違うところだ。また犯人の動機やそれに繋がる部分の描写がほとんどない点も異質なところか。理由とかそういうところを省いてとにかく『最速の探偵』らしく謎を解くことに特化している感じがする。
以下、エピソードごとの感想。
『掟上今日子のアリバイ証言』
とある理由からアリバイを作らなくてはいけなくなった元競泳選手・鯨井留可が、アリバイ工作のために街中で声をかけたのは寄りにもよって白髪の美女・掟上今日子さんだった、というスタートの本作。
殺人に見せかけた自殺、というのはフィクションの探偵モノだと割と定番でそこに落ち着いた結末は良くも悪くも無難な終わり方だったと思う。出来云々は置いておくとして、一冊の本の最初のエピソードとしては悪くない形だった。
『掟上今日子の密室談義』
人気アパレルショップ『ナースホルン』にて常連客の一人が殺害された。その現場指揮を任されたのは推理小説に憧れた結果探偵になることを諦めて警官になった遠浅警部。殺害状況からこの現場はいわゆる密室に該当するのではないかと思い至った遠浅だったが、その密室場所はアパレルショップに良くあるカーテン一つで仕切られたフィッティングルームで……という作品。
犯人視点ではない唯一のエピソードにして、「フィッティングルーム(試着室)で殺人!?」という面白い着眼点とトリックは面白かった。間違いなくこの本の中では最も面白いエピソードだと思う。トリック自体は単純で分かってしまうとなんてことはないが、防犯カメラを犯罪に利用する、という皮肉った展開もなかなか。
『掟上今日子の暗号表』
意見の不統一からついに共同経営者を殺害した結納坂仲人は、殺害したもと友人が金庫に隠したモノをどうしても手に入れなくてはならなかった。推理小説とは違ってダイイングメッセージを重要視しない警察に対してしつこく食らいついた結納坂が紹介されたのは、なんと忘却単手の掟上今日子で……という作品。
「このダイイングメッセージに反応するものこそが犯人」という発想はなんというか、古畑任三郎の敢えて何もかかずに白紙を残すことをメッセージとしたトリックというかエピソードに似てるかな、という感じ。似てるから悪いということではなく、こういう発想のトリックが実は稀有なので久々に観れたな、と。暗号そのものは、これまた分かってしまうと単純というかちょっと無理があったかな(笑
あとこの『暗号表』、とにかく前置きが無駄に長い。あの自己暗示というか、自己正当化の文章あんなに必要だったか?
評価は、★★★★(4点 / 5点)。短編オムニバスとしては及第点。『密室談義』の出来が良かったこと、『アリバイ証言』の無難さ、『暗号表』の前置きの無駄かげんから差引してこれくらいかな、と。
- at 21:11
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