南青山骨董通り探偵社

著:五十嵐 貴久 発行元(出版):光文社
≪あらすじ≫
大手企業に就職したものの、うだつの上がらない日々に塞ぐ井上雅也。ある日、南青山骨董通り探偵社の社長・金城から突然話しかけられた。「探偵になる気はありませんか?」。雅也は訝しみながらも体験入社をするが、厄介な事件に関わることになり……。個性的なメンバーの活躍が、軽快なテンポと極上のサスペンスで繰り広げられる、ベストセラー作家の新シリーズ始動!
(文庫本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪あらすじ≫
タイトル通り、探偵を題材とした割と定番な一冊。
導入からの起承転結は全体的には一冊で纏めるための展開な感じで良く言えば上手く纏まっている、悪く言えばちょっとラノベ的な感じすら受けた。
日常に不満のある主人公に、(理由はあるにはあるけど)探偵社の社長がいきなりスカウトに来て、スカウトされた主人公は本業の傍ら試験期間的な感じで探偵業に首を突っ込み、そこで探偵として才能がある成果を残して事件解決、という流れだからね、仕方ないね。
個性豊かというよりは、割と誰も彼もフィクションらしい有能さを持つキャラクター、というべきだろうか。社長・金城の無駄に広く強いコネや顔の広さもそうだし、元刑事・徳吉の情報収集能力、サブキャラ・立花の電子情報への「強さ」含めて。それが「個性」になっている。何が出来る、何が得意。それも立派な個性だ。
ただ一方で女子プロレスラーだという美紀や、事件に巻き込まれた玲子など設定だけで全く活かせていないキャラも少なくない。まぁ、キャラが活かせていないというよりキャラが多すぎて使いきれなかった、という方が正しいかもしれない。
個人的には主人公の立ち位置が最後まで読み切れなかったかな、というのが本音。ルール、法律といったものを気に掛ける――良くも悪くも大企業に勤めるようなコンプライアンスの意識が潜在的に高い言動をし金城らが法に抵触あるいは超えるような行動に苦言を呈する一方で、玲子のためには平気で犯罪に近い行為をし、真犯人には「あれがあの男だ」「あの男は君を愛してなんかいなかった」などと偉そうに説教をする。そういった部分がやや作者にとって都合が良いキャラクターになり過ぎてしまっている感は否めない。
金城らにあそこまで言うのであれば自分が病院に潜入したり、知り合いに警察のデータベースにハッキングさせたりするのであれば、それに対する「躊躇い」から「葛藤」、そして踏ん切りをつけてやってやるという「決意」みたいな流れはもっと鮮明にするべきではなかったか。そういう部分がないので、(キャラクターって言うのは基本的に作者がストーリーを回すための「役者」なので都合のいい言動をするのは当たり前にしても)都合よすぎるキャラクターになってしまっている感じがした。
ミステリーというよりはサスペンス。探偵モノではあるが、最近ドラマ化されている『探偵の探偵』に比べればやっていることも、やっているキャラもマイルドなので、まぁ読みやすいといえば読みやすい。
社長である金城が「仲間」であることを強く意識するのは、探偵という職業とのギャップも含めて面白い部分だが、さすがに一巻目ではそこまで強くは物語には出てこなかったのがちょっと残念。
評価は、★★★☆(3.5点 / 5点)。キャラを活かしきれなかった点などもあるが、楽しめた一冊。主人公の雅也の言動は賛否・好悪がハッキリわかれるかも。
Comment
Comment_form