浜村渚の計算ノート

著:青柳 碧人 発行元(出版):講談社
≪あらすじ≫
「数学の地位向上のため国民全員を人質とする」。天才数学者・高木源一郎が始めたテロ活動。彼の作った有名教育ソフトで学んだ日本人は予備催眠を受けており、命令次第で殺人の加害者にも被害者にもなりうるのだ。テロに対抗し警視庁が探し出したのは一人の女子中学生だった。新時代数学ミステリー。
(文庫本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
数学が嫌いな人は少なくないだろう。私もそうだ。そんな人ほど読んで欲しい一冊。それがこの『浜村渚の計算ノート』と言っても良いのかもしれない。
これを書いたタイミングで日本の教育がどのような方向性を向いていたかは分からない。ただ数学を始めとした理数系が前政権の政策のせいで憂き目にあっていたタイミングで出されたのだとすれば何と言うネタの使い方か、と思う。
数学の地位向上のため、国民全員を人質にする。
一見すればバカげた設定だが、それを上手く活かしている。そうすることで登場人物を敢えて狭め、女子中学生が警察に協力する「意味」をちゃんと持たせている。
肝心のエピソードは数学が苦手な私でもそれなりに楽しく読めるものが多かった。数学を好きになれるかどうかはともかくとして、数学に関する豆知識や雑学を蓄積出来る感覚は「楽しい」と表現しても良い(無論、これには個人差があるだろうが)。
数式を用いて問題を解く。
私たちのような、数学が苦手な人ほどそうとらえるのだろうが、そうじゃない――数学を本当に好きで誠実に向き合っている人たちが観る「数学」という世界がどういうものなのか。その一端を擬似的に体験出来たような気がする。
敢えて言わせてもらう部分があるとするなら、続編を前提としていたとしてももう少し首謀者である高木に近づくような展開は欲しかったか。そしてあとがき以降はハッキリ言って蛇足以外の何物でもなかった。変な解説なんていらんよ。その解説がむしろ読了後の余韻を殺している。
まぁ、この辺は作者のせいというより編集者の能力不足と言うべきか。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。数学が苦手な私でも、割と楽しめて読める数学を軸としたミステリーとしては成功していると言える一冊。続編もあるようだが、どういう展開やストーリーになっているかは楽しみ。
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