迷宮庭園―華術師 宮籠彩人の謎解き―

≪あらすじ≫
宮籠彩人は、迷路のような庭をもつ鎌倉の旧家に執事と二人で暮らす。訪れる人に似合う花を選び、宴に添える花々の見立てを生業とし、花からのメッセージを読み解く華術師の貌も持つ。ある日、宮籠家の近所で交通事故が発生。被害者は、前日に彩人の家を訪れた女性の夫だった。彩人が彼女にマドンナ・リリーを選んだのは、何故?そのメッセージは、彼女の運命を何処へ導くのか。
(文庫本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
最初に「雪月花の葬送(続巻)」の方を読んでしまっていたこともあって気になっていたので、こちらも手に取ってみた。
続巻の頃から思っていたことだが、登場人物が基本的にみんな「大人」であることが好印象だ。突飛な言動をするようなキャラクターはおらず、せいぜい編集者の立花真くらいがムードメーカー兼トラブルメーカー的なところがあるものの、それも社会人としてギリギリ常識の範囲内。
彩人も、朽木も、八千代も、他のキャラも基本的に言動が年齢相応なのが(自分が社会人であることもあって)社会人としてとても好感が持てる。
どうしてもこの手のエンターテイメントのミステリーって、エンターテイメントっぽさを出すために一般社会では通用しないような言動をする「あり得ないキャラ」を出してくるのだけど、それって現実社会を舞台にしていると矛盾であり違和感なんだと思っていた。
そこから逆算すれば、現実社会にいても不思議ではない言動をするキャラクターたち「だけ」でミステリーを構築するっていうのは、現代という世界観、あるいは舞台を最も正しく、最も分かりやすく動かせるんじゃないかなと思うわけで、そういう意味でこの作品は私のそんな趣向と見事に合致していた。
ただまぁこれをミステリーと呼んでいいのかは微妙なところでもあるけどね。亡霊とされた死んだはずのかつての恋人と密会する妻。一卵性双生児の弟というのは素人である私ですら最初に思いついてしまう部分なので、そこはさすがに外す、あるいは捻るような部分が欲しかった(まぁ、ユキエというハンドルネームは捻りだったのかもしれないが)。
とはいえ、鎌倉という舞台を活かすような「大人」なキャラクターたちが織り成す一冊の物語としては上出来だと思う。
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。マイナスポイントは前述のようにミステリーとしてのトリックの弱さくらい。キャラクター、舞台、描写、表現力、語彙力などはとても私の趣味に合致していて読みやすく楽しめた一冊だった。
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