ソルティ・ブラッド -狭間の火-

≪あらすじ≫
京都府警察本部の刑事課に所属する新人キャリアの宇佐木アリスは、相棒兼指導役の片平とともに、敬明芸術大学で起きた放火事件の捜査を担当することになった。現場は大学で講師をしている新進気鋭の彫刻家、鏑木成人の机。規模も被害も小さい事件で、疑わしい人物はいるが、確証は得られない。関係者の証言を集めるうち、“吸血鬼”と呼ばれる存在が姿を現し…。
(文庫本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
集英社オレンジ文庫からの一冊。
新人キャリアで事件を嗅ぎわけるような特殊な才覚を持つアリスと、吸血鬼と呼ばれる人外の存在が関わる事件とは何か、という感じの一冊だ。
率直に言うとありふれたネタとありふれたストーリーでパッとしなかった、という感じかな。トラブル体質の主人公という設定も、実在する吸血鬼という設定もありふれている。ありふれているから悪いとは思わないが、ありふれている以上には他の有象無象と同じにならないような努力は欲しかった。
特に吸血鬼なんてこの手の作風なら真っ先に出てきそうなものであって、それに対する工夫あるいは造詣の深さはもっとないとダメかな、と。
それ以上にストーリーや事件に対して「吸血鬼(としての身体能力がある)だから」というのが残念すぎた。事件解決も吸血鬼としての能力が先行している印象だった。
対して警察や公的機関へは著者の主張なのか、やたらと手厳しい意見が多く目立ち、新人とは言えキャリア警官の主人公アリス視点が多かったこともあり「お前が言うな(考えるな)」とツッコみたくなることも多々。それと先に挙げた「ストーリーやそこにある問題を吸血鬼という存在だけで解決してしまう」都合の良すぎる部分が気持ち悪いほどミスマッチ。
この設定でストーリーを作るなら最初から「放火」事件じゃなく「吸血された被害者のいる傷害(殺人)」事件――通称吸血鬼事件を取り扱う新人キャリアが、本物の吸血鬼・理市と知り合い、理市に「こいつは吸血鬼の事件じゃねぇ、人間の仕業だ」と言い出し一緒に真相に辿り着くべく捜査を開始して――、みたいな方がベタだけど良かった気がする。
吸血鬼というある意味最大のファンタジー要素を使いながら、現代として不必要なまでのリアリティのような環境、その割に主人公アリスの意味不明なフィクションっぽい無謀さが最後まで沿わなかったかな。
評価は、★☆(1.5点 / 5点)。設定は悪くなく、警察に手厳しい自論の多い著者の書く文章は興味深かったものの、エンターテイメントとしての小説のストーリーは落第点。
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