天久鷹央の推理カルテII ファントムの病棟

≪あらすじ≫
炭酸飲料に毒が混入された、と訴えるトラック運転手。夜な夜な吸血鬼が現れる、と泣きつく看護師。病室に天使がいる、と語る少年。問題患者の巣窟たる統括診断部には、今日も今日とて不思議な症例が舞い込んでくる。だが、荒唐無稽な事件の裏側、その“真犯人”は思いもよらない病気で…。破天荒な天才女医・天久鷹央が“診断”で解決する新感覚メディカル・ミステリー第2弾。
(文庫本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
天久鷹央シリーズの第二段。
今回メインとなるのは、鷹央の人間味という部分だった。医者として患者を看取ること。それは医者である限り避けては通れない。まして、天才的な頭脳を持ちながら――いや、持つからこそその患者が助かるか否かを瞬時に分かってしまう鷹央にとって、自分より若い友人の命を見送るという一つのテーマはなかなかに重く、大きかった。
他にも今回はトラック運転手、看護師のエピソードも命をテーマに扱っているように思えて、本一冊として上手くテーマがまとめられていた気がする(もっとも、医者・医療現場をテーマにしているミステリー作品なのだから、命は多かれ少なかれテーマには必ずなっている気もするが)。
さて、気になることをなかなか語らない作品だな、とも思った。
例えば診断医としては天才であり超一流の鷹央だが、彼女が「診断」しかしないのは裏を返せばそれだけ医師としての技量に劣っているからだというのは一巻を読んでいた頃から薄々感じてはいたことだった。
実際、今回鷹央は医師として総合的な技術が求められる研修医時代に苦労したことなどが語られた。それでも鷹央は医師になることを目指したのだ。一方で姉の真鶴は医師にはなっておらず、事務長という立場。彼女たちの能力や性格を考えれば立ち位置は逆でもおかしくなかったはず。それでも医師をめざし医師になった鷹央と、医者にはならない道を選びながら病院の事務長にいる真鶴はどうしてそういう道をそれぞれ選んだのか。
また時折語られる小鳥遊の過去。外科医として五年の浅いながらキャリアを積みながら内科医を改めて目指し直した理由とは何か。
こういうところの謎を残し続けているということは、まだまだシリーズ作品として先を描く予定と覚悟があるのかな、と感じた。
総合的に観ても非常に優れた一冊ではあったが、欲を言えば時系列はもう少し整理はして欲しい。結構ごっちゃで、時系列で語ると一巻のさらに前のエピソードとかもあってそこはどうしてそういう時系列になったのか、もっとシンプルには出来なかったのかと最後まで疑問だった。そういう時系列にした「意図」も見えなかったし……。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。テーマとしてもエンターテイメントとしても良く纏まった医療ミステリーの一冊。ただ、そういう風に魅せるためだったとはいえ鷹央のメンタル面の弱さや不安定さは中盤の読み心地の悪さを生んでもいるので、その辺は正直賛否はありそう。
Comment
Comment_form