天才ハッカー安部響子と五分間の相棒

≪あらすじ≫
ネット上でのなりすましとカードの不正利用の被害に遭った肇。犯人探しの末に辿り着いたのは隣人の美女・安部響子だった。彼女に誘われ、ハッカー集団ラスクの一員として活動を始める肇。トラブルを放置する悪質企業を攻撃して謝罪と賠償を行わせる、世直しともいえる活動は世間の支持を集めるが、警察の捜査の手も迫り…。引きこもり美女と変わり者の青年が大金を狙う、スリリングな快作!
(文庫本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
現代を舞台に、ハッカーたちの一つの計画を描いた作品。
ハッカーというキャラクター像や、サイバー関連の用語の多さからそういった分野に疎かったり興味が薄かったりするとやや敬遠されがちだとは思うが、本作は非常に読みやすい部類に入ると思う。出てくる単語はもちろん専門的なものだが、それをつらつらと並べた説明はあまりなく、多用される単語の多くはフェイスブックやツイッターといったサイバー関連と言うより一般用語になっているものが多い。
作品としても基本的には知略戦・情報戦。そういったものを楽しめるなら楽しめるだろう。視点はこちら側だけではなく、敵側の視点でも描かれ、それがしっかりとミスリードを誘発する要素にもなっているため、あちこちにブレる視点も意味がなかったり苦し紛れだったりするのではなくちゃんと意図や意味があるのも読みやすさを助長してくれている。
またこれは好みにも寄るが(ネタバレだが)、基本的に主人公の一人である安部響子があらゆる面において上手に立っている。相手に出し抜かれることはなく出し抜こうとする相手をさらに一枚も二枚も上で巧みな方法で出し抜いている点は、個人によって好みが分かれそう。ちなみに私は結構好き。特にこういう知略を巡らせる戦いでは。
ただ、全てにおいて賞賛できるのかといえばそうでもない。例えば、最後のクライマックスにおけるどんでん返しは、正直ちょっとインパクトとしては弱い。どうせなら敵対組織の実働リーダーだった吉沢が、実は二重スパイで仲間でした、くらいの展開は欲しかった。というよりも、あそこまで「強力な敵」としての像を描いておきながら最後まで真相に気付かない、というのは……気付いていたけど敢えて無視していたのかもしれないが。
主人公たちや、それを追う警察組織とはまた違う第三者の視点として描かれた学生たちの描写はやや踏み込みが足らず、「なければないで問題ない」レベルの中途半端なものだし、それをいうなら響子と主人公・肇の恋愛物語も正直微妙。変に嫉妬とかそういうのを入れたせいで余計に中途半端さが上乗せされている感じだし、あの響子が肇に興味を持つ部分はもう少し他をカットしても描くべきだったと思う(恋愛物語を描くなら)。
そういう部分含めて続巻を視野に入れていたのかもしれないが、逆にそういった部分が一冊の本としての完成度を目に見えて落としてしまった気がする。
また設定を活かせていたかと言えば実はそうでもない。タイトルの「五分間の相棒」は、本編中で(相棒と言う要素はともかく)「五分間」というタイムリミットが意味を持っていたのは序盤のほんのわずかな間だけでその後は「五分」がキーワードとなることすらなかった。
同様に、序盤ではスイッチが入ると名探偵並みの推理力をなぜか発揮する主人公の肇だったが、それを見せたのはせいぜい中盤くらいまで。以降はせっかくのキャラ付けだったはずなのに使われずじまいと、タイトル、設定含めて「序盤ではキャラ付けのために使ったけど、後半は使いづらいから使わなかった」という感じがとても残念。
評価は、★★★★(4点 / 5点)。取り上げている題材の割には読みやすい点と、主人公側のある種のチートと言うか強者っぷりが好き。減点は上記の通り続巻を見越したかのような中途半端な描写が端々に見られたことかな。
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