犯罪者書館アレクサンドリア ~殺人鬼はパピルスの森にいる~

≪あらすじ≫
父親が多額の借金を残して亡くなった。神田六彦はその肩代わりとして殺されかけるが、突如として現れた夏目と名乗る女によって、彼女の経営する店で働くことを条件に命を救われる。しかし、そうして足を踏み入れたアレクサンドリアは、殺し屋を始めとする反社会的な人間だけが利用する言わば犯罪者書館。常識も法律も通用しないその店では、シャーロック・ホームズを名乗る殺人鬼によって、次々と常連達が消され始めていた。
(文庫本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
メディアワークス文庫の一冊。単純にタイトルとあらすじに惹かれて手に取った一冊である。
全体的な感想としては……言葉を選びづらいところだが、「まずまず」というのが一番正しいのかもしれない。「犯罪者書館」と銘打っておきながら、(確かにこの書館にやって来る連中は殺し屋だったり贋作者だったりと違法者ばかりではあるのだけど)それを意識させるような描写や雰囲気かと言えばそんなことは決してない。それがこの作品にとってプラスなのかマイナスなのかは、たぶん手に取った人によって本当に変わってきてしまう部分だと思う。
本筋である「ホームズ殺人事件」に関して一冊を通して推理して行くという感じではなく、最後のエピソードでそれを扱うがその前段階で犯罪者たちの日常や犯行動機を全く別の線で推理するというスタイルなのも評価が分かれそうだ。ミステリーとして考えれば当然一冊を通して「ホームズ殺人事件」を追った方が良い。常連客が次々と消されているならなおのこと。
一方でそれをしないからこそ、この作品の空気感は良くも悪くも軽い。
作品としては、面白い部分を突いていたとは思うんだけどね。一般的にミステリーにおいてなければならないものとされる「犯行動機」「アリバイ」。そういったものが「ある方が不自然」というのがこの作品での一つのテーマだったようにも感じる。実際にそういう風にキャラクターたちに言わせているわけだし、明確な理由があるわけではなくて「なんとなく」が人として一番実は自然な動機であって、明確な理由なんてのは後からのこじつけに過ぎないのではないか、と。
そういう部分は面白い発想だと思うし、実際に目から鱗が落ちる……というといい過ぎかもしれないが、今まで自分にはない感覚だったのでとても新鮮だったし勉強にもなった。
だからこそ、六彦を買った夏目に六彦の父親と接点があったとか、夏目の犯行理由の一端に寂しさがあったせいだとか、そういうところで「理由づけ」をしてしまったのはいただけないと思う。そういうのすら一切ないからこそこの作品は意味があったような気がするし、先に挙げたように「なんとなく」で良かったのにそこに変な肉付けをしてしまったのは要らぬことだったようにしか思えない。
もう一つ作品として評価したいのは、おそらく続巻はでないだろう、ということだ。もちろんまったく出る可能性がゼロかといえばそんなことはないのだと思うけれど、一方で主演の一人があの結末ではなかなか続巻というわけにはいかないだろう。一冊の本でピリオドを打った、という部分は下手に曖昧な続編を匂わすような描き方よりもよほどハッキリしていて良かったことだと思う(だからといってあの結末をもろ手を挙げて賛同しているわけではないが)。
評価は、★★★☆(3.5点 / 5点)。作品として3点、先に挙げたように一冊完結っぽく終止符を打てたところで+0.5点というところかな。最初の方に書いたようにタイトルと中身が乖離している雰囲気や部分もあるので手に取った人によって評価が左右されやすい一冊だと思う。人には薦め辛いが、その分だけ作風が合えば面白いと思える一冊だとは思う。
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