探偵の探偵 II

≪あらすじ≫
妹を殺したストーカーに不法に情報を与えた探偵はどこに潜むのか?「対探偵課探偵」紗崎玲奈は、レイプ犯の部屋に忍び込みその手がかりを見つける。妹の仇は絶対にとる、と誓う玲奈は、憎き探偵を「死神」と名付け、その影を追う。知力と情報力で争う現代の探偵を活写する革命的探偵小説、第2巻。
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
探偵の探偵、第二巻。
率直に全体的な感想を述べるならば、酷く中途半端。具体的には、作品としてのスタンス、かな。かなりダークに、もっと言えばグロく非道に描いておきながら、それでも一線だけは超えたくないと駄々をこねてて「結局、なんなの?」というのが終始持っていた感想だった。帯の過大な謳い文句は所詮広告のためのもので何の説得力もないなと改めて感じた。
例えば、玲奈が琴葉に謝罪するため姉夫婦のところを訪ねたシーン。前者では琴葉がされたような乱暴をされながらそれでも性行を強要しなかったという展開だったが、それが酷く不自然だった。あそこまで出来てしまう連中で、しかもそれを証拠として残ってしまうようなビデオで録画するような頭の悪い連中がその一線を踏み止まれるとは思えなかったのだ。加えて玲奈の容姿は怪我を追っているとはいえ「探偵としては目立ちすぎる」と言われるくらい良いことは、各部で描かれていたことだったはずだ。それなのになぜなのか。
逆にそこまで至らないなら、そのもっと手前に彼らは一線を引いたようにも思えた。というか一般人なら一線を引く。なぜならそのメリットとデメリットを無意識の内に計算するはずだからだ。デメリットとして「やり過ぎ」て警察を呼ばれたりしたらその時はいかなる理由があろうと自分たちが暴行罪で捕まる。
だから味噌汁ぶつけるとか、生卵ぶつけるとかそういうラインなら理解出来た。だが、殴って蹴って、洋服切りさいて、息が出来ないようにホースで水をかけて、しかもそれを録画している。
そこまでしたけど一線を超えない。一線を超えない割にはやり過ぎている。そんな中途半端さが、ここを含めて半グレ集団「野放図」に拉致されレイプされかけたシーンや玲奈が殺人を犯すかどうかのギリギリのラインなど各所に見えた。
もちろん、メタな発言をするならばこの場合でいえば、ヒロインであり主人公の玲奈がレイプまでされてしまうのは幾らなんでも「読み物」として良くないと著者か、あるいは編集者かが判断した結果なのだとは思う。ただ、それならば引くべき線引きを間違っていると思った。
あと読み終えて思ったことは、読んでも何も胸を打つものがなかったんだよね。玲奈などいわゆる主人公側は失うものばかりだ。玲奈は思い出の動画のデータ、琴葉は家族、そして窪塚という一人の刑事の命。対して敵側は結局誰一人命すら失うことはなかった。
得るものは大してなく、それに対して失ったものはあまりに多すぎて……。この本が「良い人ほど損をして早死にする」ことを証明するための本だというなら私は「なるほど」と頷くが、たぶんそういうことはないだろう。
そういえば、玲奈の弱さが前巻からずっと引っかかってる部分でもある。探偵vs探偵を英名で銘打ったタイトルの割に、玲奈はあまりに無力だ。基本的に一対多の戦いを強いられているので仕方ないともいえる。だが、一対一の局面もあり、そうなることが容易に想像できるシーンも多かった(例えば冒頭の堤との対峙など)。ならば、もっと対策も警戒もしているはずなのに、そう言った部分がまるでない。
ただ取ってつけたようにそうの窮地が起きて最悪の展開になった時の措置だけはある。それが「どうだ、玲奈の探偵としての知力は」と作者は言いたいのだろうが、「いや、そんなところに知力使うならその前の段階で最悪の展開にならない努力をしろよ」としか思わない。
キャラクター的には窪塚の退場は勿体ないな、というところ。仮に彼が生きて今回の一件の責任を取って懲戒免職となり、スマ・リサーチに再就職した場合、窪塚の警察時代の伝手や知識を堂々と玲奈やスマ・リサーチ側の探偵も使うことが出来て良い味を出すキャラになったと思ったのだが……。
評価は、★★(2点 / 5点)。二巻目にもなると粗というか、作風の中途半端さばかりが目立ってしまった感じ。グロや鬱展開好きには最後の一線を超えない中途半端さ、それ以外の人には必要以上のグロさや鬱さにアンバランスさを感じることだろう。
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