あいるさん、これは経費ですか? 東京芸能会計事務所

≪あらすじ≫
モデルを目指し上京した竜ヶ水隼人。しかし、ある勘違いから東京芸能会計事務所―芸能人のみをクライアントとする会計事務所で働くことになり、美人だが暴走する所長・天王洲あいるにこき使われる日々を過ごしている。ゴーストライターを見破る方法とは?毒舌タレントが突然税理士を変えた理由は?業界の謎を、アイドル税理士と天然青年コンビが解き明かす!楽しく学べる超実用的エンタテインメント、始動!
(単行本裏表紙より抜粋)
感想は追記からどうぞ。
≪感想≫
税や会計を軸とした日常系(?)ミステリー。どうやら著者の山田さんは他にもこの手のネタで本を出されているようだ。その時の反省も生かされているらしく、全体的に読みやすく、ストーリーもしっかりとしていると感じた。良い意味で教養本に近いところはある。漫画で読むマナーやらなにやらというシリーズが最近話題になっているし、売り上げも良いらしいがそういったところに似ていると言っていいだろう。「ラノベで読む会計や税」みたいな。
さて、ストーリーは鹿児島から上京した主人公・竜ヶ水が、元人気アイドルグループの伝説的センターだった天王洲が所長を務める会計事務所に間違って就職してしまったところからスタート。間違って就職という展開が何となくラノベっぽいが、掴みは悪くない。
その後は短編ずつ、それぞれに税に関するテーマを設けながらストーリーを紡いでいくというスタイル。あとがきで著者の山田さんも語っているように、バランスが良い。ストーリー重視となっており、税に関する知識や表現の部分が必要最小限程度に抑えられている感じで、比較的ある程度社会人で税に対して意識があれば取っつきやすい。逆に言うと税金に対する意識が低い人や学生なんかだと、どことなく感じられる部分は少ないかもしれない。
しかし、なんといっても主要登場人物の「キャラ」がしっかりと立っている点がとても素晴らしいではないか。美人だけど毒舌でひと使いが荒い天王洲あいる、世間知らずの田舎者だがだからこそ正々堂々正面から問題に突っ切る竜ヶ水隼人、その隼人が大ファンの「アイドル」らしいアイドルながらある大きな秘密を抱えた烏山千歳など。
天王洲あいるは、ハルヒ系のキャラではあるが、あそこまで毒が強くないのもいい塩梅に調整されていた。だがしかし、何と言っても竜ヶ水のキャラが良い。特に贈与税に関するエピソードの際に、直接調査する相手の会社の社長に合って来たり、相手の税理士に合って来たりという展開が「ニヤリ」と笑えた。田舎者で芸能事務所と芸能会計事務所を間違えて門をたたいてしまったが、高校時代の推理系の探偵クラブをしていたという過去やアイドルオタクの点から変装し雰囲気を変えた相手を見抜く点、なにより堂々と相手を訪ねて「どうですか」と聞ける良い意味での図太さとピュアさw
そこがあったからこそ竜ヶ水と言うキャラクターは死ななかったし、天王洲あいるなどと肩を並べても決して埋もれなかったんじゃないだろうか。
あとその割に登場人物が少なめ(ゲストキャラを除く)。そこもシンプルで良かった。
最後がちょっと恋愛っぽくなったのは賛否あるかな。私は悪くないとは思うけど、そうなるなら千歳の抱えていた秘密はもう少し竜ヶ水に「希望」のある形の方が良かったと思う。そうなると千歳が竜ヶ水を高く買っていることも含めて良い三角関係になりそうだったが、さすがに千歳が千歳ではね(苦笑
評価は、★★★★☆(4.5点 / 5点)。短編オムニバスの短い間にしっかりと起承転結が成立していて、ストーリーを重視しつつテーマである税金や会計に関する話をうまく盛り込んできている。おまけに芸能界や出版などの業界に関する話題も、どこまで本当か取り入れている。
ゴーストライターを会計・税理士視点で見てのエピソードなど現実の問題や事件も上手く噛み砕いて消化していると思う。-0.5点は、そもそも題材が税や会計、税理士に関する部分なのでそういった部分に興味や共感が抱けない人だとちょっと読むのに苦労しそうだから。
あとがきを読む限り著者は二巻を出す気満々のようだが、出るならぜひまた手に取ってみたい。
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